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あなたの色に染められて

第31章 分岐点



『…卒業ね。フッ…うまいこと言うな。』

たっちゃんはすっかり陽も落ちた窓の向こうに視線を送りながらコーヒーを口に運ぶ。

『…聞いてるよ。ニューヨークのこと。…たっちゃんは全然話してくれなかったけど…。』

『…言えねぇだろ…日本に帰りたそうな顔してるヤツにまだこっちに残ってくれなんて…』

『…助手が条件なの?』

『俺のなかでは「助手が」…じゃねぇんだよ。』

クッと飲み干したコーヒーカップをローテーブルに置くと私の方に体を向けて微笑んだ。

微笑んでるんだけど真剣な表情。その微笑みで空気が一瞬でたっちゃんのモノに変わった。

『璃子はな…そんな軽いもんじゃねぇの。おまえの支えがなかったら今の俺は確実にいない。』

『…そんなこと…。』

2年間私たちは知らない土地で「すべて吸収して帰るんだ」と必死に喰らえ付いてきた。

だから あのニューヨーク大学からの誘いは私たちが頑張ってきた証しだった。

『だから…おまえのおかげなんだよ。』

あの日 私をどん底から救いだしてくれたたっちゃんに私ができる最後の恩返し。

『…ニューヨーク…行くよ。…ただし…来年の3月には卒業させて?』

京介さんごめんなさい。もう少し待ってて…



『…璃子…』

こいつのこの優しい笑顔を見るのは何度目だろう。

優しさの中に曲げられない芯のようなものが見える。

『…いいのか?あっち行ったら今みたいに学会で日本に帰れることもなくなるぞ?』

『サラからそれはちゃんと聞いてる。忙しくてクリスマス休暇ぐらいしか大きな休みは取れないだろうって。』

『御曹司は?』

「行くよ」って璃子が言ってくれてるのに 俺はさっきから何を言ってるんだろう。

『…わかってくれる人です。』

アイツのことを思って微笑む璃子はこの2年で本当にイイ女になっていた。

『元々 2~3年って言う話だったでしょ?勝手に決めて悪いけど…来年の桜が咲くまではしっかり働きますから。…ねっ?…先生。』

ふざけ半分で微笑む璃子に俺はどれだけ救われてきただろう。

『今年のクリスマス休暇はどーんとやるから。』

『期待しないで待ってる。』

話してる間 アイツとのペアリングをずっと触っていた璃子。

『ありがとな…璃子。』

『そんなに優しいと…うふふ…なんか気持ち悪いよ。』

3月よりも早く卒業させないとな…

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