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あなたの色に染められて

第31章 分岐点



『…痛っ。』

京介先輩に掴まれた肩。

見上げると前髪の奥に冷めた眼光。

その鋭い瞳にさえも心が締め付けられるなんて私は相当熱を上げてしまっている。

『…受け取って貰える気になりました?』

視線をそらさずに笑顔で対応する私は今日に賭けていた。

想いが通じるか通じないか答えは一つ。

だから 私のすべてをぶつけようって。

『…おまえなんなの?』

『…キスをしたの覚えてます?』

あの夏の暑い日 空から光が差し込むように私だけに微笑んでくれた先輩の笑顔。

一年前のあの瞬間…この人だ…って思ったんだもん。

『俺の質問に答えろよ。』

『だから あのキスがすべてです。私は先輩が好きです。大好きです。』

『…だから?』

『私なら寂しい思いもさせませんし…ずっと傍にいます。』

『…で?…』

…ダメなの?…

表情一つ変えない先輩の心を動かす一言を私は探した。

璃子さんに無くて私にあるもの…。

身長?野球の詳しさ?

違う。今ここにいない彼女の代わり。

…女の武器…

『…抱いて下さい。そうすればわかると思います。私の良さを…』

『…ハァ?…バカじゃねぇの?』

そんなにすぐに折れるなんて思ってない。だから 私がどれだけ先輩のことを想っているのか肌を重ねればわかって貰える様な気がして。

『…一度だけでもいいですから。それでダメなら諦めますから。』

ふっと俯くと先輩は寂しそうに微笑んだ。

『…遊びでもムリ。…おまえじゃ勃たねぇよ。』

冷たく言い放った。

『…やってみなきゃ…』

『わかんだよ。男にはそんぐらい。』

掴んでいた手を放すと私の目線に屈み込んで あの日のように優しく微笑んだ。

『萌を抱いても俺の気持ちは変わらない。…俺ね 璃子にすげぇ惚れてんの。』

この優しい微笑みは私に向かってるものではなかった。

『…萌が…じゃなくて…俺自身が璃子じゃなきゃダメなんだよ。』

遠く離れた璃子さんへ向けられたもので。

『じゃあな。』

昔友達が言ってた言葉を思い出す。

…幸せになりたいなら愛するよりも愛されなさい…

…敗けたな。いつ逢えるのかもわからない彼女に完敗でした。

あの微笑みは璃子さん限定なんだって 直也さんが言ってたっけ。

届かない恋だったけど後悔はしていない。

振り向くことのない大きな背中に深く頭を下げた。

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