あなたの色に染められて
第31章 分岐点
「夕陽が見えるのか…。」
『凄いでしょ。京介さんにどうしても見せたかったの。』
ニューヨークのビルの谷間。マンションの15階の私の部屋からビルの谷間を縫って見える夕陽をSkypeを使って京介さんと眺めていた。
たっちゃんが今度の病院との契約のために何度か一人でニューヨークを訪れて巡りあった部屋。
たった半年あまりでこの部屋を出る私は寝る所さえあればいいからと伝えておいたのに
“少し狭いけどこの夕陽に免じて…”
私たちが新しく住むこの部屋はビルの隙間から夕陽が望めるバルコニー付きの4LDK。
「部屋ぐるっと見せてよ。」
『まだ片付いてないですよ?』
ベッドも机も備え付けのシンプルな部屋だけど 京介さんを何となく感じられるこの部屋に私はたっちゃんの誠意のようなものを感じた。
「おまえらしいな…」
『…そう?』
持ってきた荷物はトランク二つと段ボール1箱。ロスに結構処分してきたつもりだったけど2年もいれば自然と増えていった物たち。
『そう言えばいつになったら京介さんのお部屋見せてくれるの?』
「おまえの大好きな洗面所は見せただろ。」
『…洗面所って言うか…洗濯物の山でしたよね?見たの。』
お互いに新しい生活を始めていた。
…チャリン…
「早く帰って来ないとこの鍵誰かにやっちゃうからな。」
ハートのキーホルダーがついた新しい部屋の鍵をカメラに見せつける京介さん。
私の部屋に延びていたオレンジ色の光もだんだんと短くなって薄暗くなっていく。
その代わりに今度は京介さんのいる日本の陽は高くなっていき 画面を通しても時間の差を感じてしまう。
画面に写る京介さんの頬をそっと指で撫でる。
『ごめんなさい。私のわがままで…』
「そんな顔すんな。…ちゃんと大事にしまっておいてやるから。」
お互いが新しい場所で歩み始めた4年目の夏。
「一緒に住む先生によろしく伝えて。俺の大事な璃子を春までよろしくって。」
『うふふ…ありがとう…京介さん。』
時間を重ねれば重ねるほど惹かれ会う私たち。
萌ちゃんを見事に振ったと美紀から聞けば彼女に少し同情してしまうほど私たちはもう何があっても信じあえる二人。
もうどんなことがあったって離れない…
ううん。
…離れられない…でしょ?
夕陽が沈んだ窓の外には光輝く宝石たちが微笑み出していた。