あなたの色に染められて
第34章 キミを想う
『いゃ~マジで可愛かったっす…ああいうのが一目惚れって言うんですよね~。』
俺の同級のタケシが美紀と一緒にスタンドにいた璃子ちゃんに一目惚れをしたのは球納めのあの日。
『俺にさニコニコしながら首をちょこんと傾けてさぁ…こんにちわ…なんて微笑むわけよ。俺あの瞬間 胸がズキュン!ってさぁ。』
でも すぐに京介さんの彼女だってわかって撃沈したんだけど 相当タイプだったようで
『…京介さんの彼女さんなんっすよねぇ。…でもマジであの笑顔…あ~可愛かったなぁ。』
タケシは叶わぬ恋だとわかっていても璃子ちゃんに惚れてしまったらしい。
『ったく。人の女に勝手に惚れてんじゃねぇよ。直也こいつどうにかしろ。』
『イテッ。』
京介さんはそんなタケシの頭をコツンと叩いて笑っていた。
璃子ちゃんが向こうに帰って1ヶ月。年も明け 街はバレンタインという一大イベントに向けてずいぶんと華やかだった。
京介さんは相変わらず仕事に打ち込んで 練習に顔を出すのも久しぶりで
『あ~。京介さんが羨ましいっすよ。』
『タケシ 今日は付き合ってやるから呑んで忘れろ!』
いつもの居酒屋で和気あいあいと酒を酌み交わした。
でも タケシは京介さんを目の前にしてもまだ未練タラタラで
『直也が紹介したんだろ?何で先に俺を紹介してくんなかったんだよ。』
今度は俺に八つ当たり。
『知らねぇよ。京介さんが璃子ちゃんを紹介してくれって言うから美紀に連絡とっただけだし。』
俺はビールを飲み干すと
…あれ?…
なんだか空気が違うって言うか…俺に視線が集まるって言うか…
『…え?…京介がセッティングしろって言ったの?』
『美紀ちゃんがたまたま球場に連れて来ただけじゃないの?』
『…あ…あの。…えっと…。』
そう言えば誰も知らない話かも。
京介さんと璃子ちゃんの馴れ初め…。
そりゃそうだよな…。あのときの京介さんは特定の彼女を作らなかったやんちゃな時期で…。
長谷川さんも…
『まさか…京介の一目惚れ?』
佑樹さんも…
『おいおい…聞いてねぇぞ!』
…あれ?…知らなかった?
京介さんはいつものように壁に凭れかかってクスリと笑って
『直也…おまえペラペラ喋りすぎ。』
知ってんのは俺だけだったんだ。
『直也くん…詳しく話してみよっか。』
長谷川さんが優しく微笑んだ。