あなたの色に染められて
第34章 キミを想う
あれは社会人2年目の秋。街中の銀杏が黄色く染まる季節。
俺は璃子に恋をした。
***
集金先のお客さんともジョークを交わせるほど営業の仕事が板についてきた頃
私生活に少し余裕の出てきた俺はまたこのグラウンドに顔を出しはじめていた。
水のように澄みきった秋の空。
まさにスポーツの秋って感じの休日。
俺はベンチに下がって汗を拭うと
『京介さん!お久しぶりです!』
『おぉ直也。元気だったか?』
久しぶりに会ったのは後輩の中で一番可愛がっていた1コ下の直也。
『おまえ 市役所に就職したんだって?』
『はい!俺が公務員すよ。』
コイツとは学生時代の寮の部屋が一緒で寝食をともにした仲。
『おまえが公務員なんて…世も末だよ…。』
『俺もそう思います。』
顔を逢わせればバカ話をしていたコイツ。
~♪~♪
『あっ…すいません…。もしもし…あぁ…なんかすごい楽しそうじゃん。』
直也のスマホに女から電話。だって声も表情も柔らかい。
電話を切ってもまだヘラヘラしてるコイツに
『…あの子とまだ続いてんの?』
『もちろんですよ。』
たしか彼女は俺の得意先の看護師…のはず。
『ナースの…ミキちゃんだっけ?』
『さすが!女の名前は忘れないんですねぇ。』
『おまえ…。』
腕をムギュっと掴んでジロリと睨めば
『ウソです!ウソです!』
体を捩らせ逃げようとするコイツは本当に可愛い後輩だった。
『ミーティングに彼女来んの?』
別に深い意味はなかった。
でも…この一言がなかったら たぶん俺は恋に落ちることはなかったと思う…
『あいつ高校の時の友達と旅行に行ってるんすよ。』
『旅行?』
『美紀以外みんな大学卒業で早めの卒業旅行みたいな?』
美紀ちゃんは3年の看護専門学校を出たから一足お先に社会人になっている。
『見てくださいよ。この浮かれた顔。』
直也が差し出したスマホの画面には 美紀ちゃんと友達が顔を寄せて画面一杯に写っていて
『ほら これも…これも…あ…。』
『ちょっと貸せ。』
直也の手から奪い取る。
だって…画面の中の一人の女の子の笑顔に惹き付けられたから。
…なにこの娘?…
本気で人を好きになったことのない俺がはじめて抱いた感情。
…ずっとこの笑顔を見ていたい…
たぶんこれがはじめて恋をした瞬間だった。