あなたの色に染められて
第34章 キミを想う
『そういえばおまえあの日すげぇ駄々捏ねてたよな。「私を捨てないで!」なんてらしくねぇこと言って。』
『やだなぁ…忘れてほしいことは覚えてるんだ。』
あの揉めに揉めた別れの日 一歩も引かないこいつを説得するのに幸乃さんは苦労してたなって
記憶をなくしてる俺は話に全然ついていけなくて
『京介がすべてだったのよ。高校のときにOKもらったあの日から。あなたしか見てこなかったの。』
『ずっとおまえが居たもんな。』
『どうやったら私のことをもっと好きになってくれるのか。京介全然だから そんなことばっかり考えてた。』
野球の二の次でお飾りみたいな存在だったコイツの胸のうちを俺は考えたことがあっただろうか。
『だからさ 璃子ちゃんに対する態度にすごく腹がたって。私が6年かけてダメだったのに あの娘は半年で何もかも手に入れて。私は愛されてなかったんだ。って…そう思ったら京介が記憶をなくして私を彼女だと思い込んでるって聞いて…。』
遥香を追い詰めていたのは俺だったんだ。
人の気持ちも考えないで好きでもないのに一緒にいた俺に責任があったんだ。
『最後の賭けだと思ったの。結婚の話を飲んでくれたときは天にも昇る気持ちだったわ。…でも …神様はちゃんといるのね。』
『…神様ね…。』
『そうよ。だってあの娘の記憶を無くしてるのに もう一度心が動いてたものね。流石の私も運命は変えられなかったわ。』
やっと空を見上げた遥香の顔は随分とさっぱりしていて
『おまえが悪いんじゃないよ。俺が曖昧な態度をとってたからいけないんだよ。』
遥香はクスクスと笑いだして
『璃子ちゃんて本当に凄いのね。京介が否を認めるなんて。…良かったね…いい娘に出会えて。』
『おまえもな。大切にしてもらえよ。』
遥香は立ち上がって俺の方を向いて
『結婚は?』
『うるせぇな。』
『京介のことだからまだプロポーズもしてないんでしょ。早くしないといい娘だから取られちゃうよ?』
『…余計なお世話。』
遥香は長い髪をかきあげて 手を差し出した。
『ありがとう京介。』
たぶんはじめてかな。綺麗だって思ったの。
『幸せになれよ。』
握手をして優しく微笑む遥香はこれからも俺らの仲間で
『こっち戻ってきたら顔出せよ。』
『ありがと。』
遥香との日々が思い出に変わった瞬間だった。