あなたの色に染められて
第34章 キミを想う
『2つ年下で…背もそんなに変わらない…でもすごく優しい人なの。』
遥香はグラウンドに目を向けながら独り言のように話はじめた。
『最初はね あり得ないって思ってた。でもこんな私に一生懸命なの「僕の全部をかけて幸せにしますから」って。』
俺は遥香の隣に座り直してグラウンドを眺める。
『誰かさんと違ってすごく優しいんだから。』
『悪かったな。』
見た目は全然変わっていないけど 物腰はずいぶんと柔らかくなっていた。
それは遥香の言う通り 今の男が穏やかな人なんだなって いい男をみつけたんだなって
『ノロケてんじゃねぇよ。』
俺はおまえを愛することができなかった。だからおまえだけを見てくれるその人と幸せにって思ったのに
『…今日はお願いがあって来たの。』
『…お願い?』
俺の方に体を向けて真っ直ぐに俺の目を見据えて
『ちゃんと振って…私のこと。』
『は?』
今さらこんなこと言うこいつ。それは遥香なりの今の男へのケジメだったのかもしれない。
すべて整理してまっさらな自分になって彼の胸に飛び込みたいって
だからかな。そんなこいつの笑顔に負けて捨てるはずの缶コーヒーに口をつけた。
***
『覚えてない?あの日 幸乃先輩と京介でスマホを返せって言いに来たじゃない。私が持ってるのバレちゃってさ。』
そういえば そんなこともあったなって。記憶を戻せない俺にたしかあのスマホは最後の砦だって幸乃さんが説得してくれて。
『何となく覚えてる。』
『あの日 京介は半信半疑で同席してたでしょ?スマホを私が持ってたって判ったって責めることも怒ることもしないで。』
『悪い…その頃の記憶が曖昧なんだよ。』
『じゃあ 私が何で私が隠してたかわかる…?』
『見たらバレるからだろ?』
だってあのスマホのなかには璃子との思い出がたくさんつまっていて あの写メを見て夏樹さんの店に行けたんだから。
『それもそうだけど…あの中の彼女に嫉妬したの。』
『…嫉妬…?』
『レンズの向こうの京介が笑ってるからこの子も笑ってるんだろうなって。私がして欲しかったことが全部入ってる感じで。なんか悔しくってさ。』
『…らしくねぇな。』
璃子のおかげだな。
こいつの弱さをはじめて感じることができるなんて。
『それで?』
決着つけなきゃいけないのは俺も同じだった。