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あなたの色に染められて

第35章 幸せのタネ

『おかえり璃子ちゃん!それと…HAPPY BIRTHDAY!』

『夏樹さんも覚えててくださったんですか?』

出産の疲れが残る美紀の部屋を早々に後にして ディナーのお店に選んだのは夏樹さんのお店。

『忘れるわけないだろ?璃子ちゃんの誕生日は特別なんだから。』

目尻に皺を寄せてニコリと微笑む夏樹さんはいつ会っても紳士的。

『もう 夏樹さんはお上手ですね!』

京介さんは誕生日だからと「ホテルでディナーでも」なんて提案してくれたけど いつもと同じ環境で一緒に過ごせるってことが何よりも贅沢な気がしてこのお店を選んだ私。

『今日は璃子が選べよ。』

メニューを私の方に向けて差し出す京介さん。

『いいの。いつもみたいに京介さんが選んで?』

それをクルッと回して京介さんに向き直す私。

誕生日だから特別なことをしてあげたいと言う京介さんと特別なことを望まない私。

『おまえさ誕生日だろ?もっとワガママ言ってくれないとさぁ。』

『ワガママ言ってますよ?お家でだって一緒に居てもらったし 夏樹さんのお店にも連れてきてもらったし。』

テーブルの横でこのやりとりを見守る夏樹さんはずっと微笑んでいたけれど 譲り合う私たちの前に手を伸ばしメニューにパタンと閉じて

『だったら俺に任せてくれない?』

『夏樹さんに?』

『せっかく誕生日に来てくれたんだ。シェフにとっておきの料理を用意させるから 俺にも祝わせてくれないかな?』

思ってもいなかった夏樹さんの素敵な申し出

『京介さん…いいのかな?』

京介さんは優しく微笑んで首を縦に振って

『では…お願いします!』

***

『今日は車なの?』

いつもは黄金色のスパークリングワインが注がれるけと今日は車だから炭酸水。

『璃子を産んでくれたご両親に送り届けなきゃならないんで。』

『そうだな。まだ京介だけのモノじゃないからな。では ごゆっくり』

私の家族の気持ちもちゃんと考えてくれる優しい人。

『じゃ 誕生日おめでとう。』

『…ありがとうございます』

…チン…。

本当は今日のために色々と計画してくれてたんだよね。暇さえあれば幸乃さんに電話して 相談してたって直也さんがさっきこっそりと教えてくれた。

ろうそくの柔らかい灯りが私たちを照らしている。

いつも来てるお店なのになんでだろう…特別な場所のようだった。

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