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あなたの色に染められて

第35章 幸せのタネ

『はい。璃子ちゃんの大好きなウニのクリームパスタ。』

『わぁ。見て!京介さん。今日は生ウニとイクラがのってますよ。』

前菜からカルパッチョ そしてメインにパスタとずっとこの調子で一品ずつに感動して

『う~ん!美味しぃ!』

きっと夏樹さんもこの笑顔が見たかったんだろうな。いつもはカウンターでワイングラスを傾けているのに 今日は一品ずつテーブルまで運んでくれているのだから

『次はお待ちかねのデザートだけど まだお腹大丈夫?』

『もちろんですよ。別腹ですから。』

そうなんだ。俺もこの笑顔に一目惚れをして人生観を変えたんだ。

愛する意味さえも知らなかった俺が このあたたかい笑顔に寄り添うたびに冷めた心を溶かして この笑顔を守るのは俺なんだって自然と思えて。

『プニプニ一直線だな。』

『今日だけですぅ。』

こっちまで自然と笑顔になれる こいつはきっとすごいパワーを持ってるんじゃないかって。

『あっ!おまえ 俺が最後に食べようとしたウニを!』

『う~ん。美味しい。京介さんが意地悪言うからお仕置きです。』

もう 璃子無しの人生なんか考えられなくて。

『覚えてろよ。デザート取ってやるからな。』

『あっ!それは…!』

俺たち 心を通わせてもうそろそろ4年。でも 二人で過ごした時間は1年もない。

『夏樹さん 不公平にも程があるでしょ?』

『璃子ちゃんはバースデースペシャルですから。』

『おまえそんなに食えるの?』

『もちろん!アフォガードにティラミスにピスタチオのムース!…幸せぇ。』

時間なんてあまり気にしてなかったけど

『おまえ帰ったらお母さんの特製ケーキも食うんだろ?』

『はい。食べますけど?』

こいつは両親の愛情を一心に注がれた一人っ子。

竜兄や直也たちのあの優しい眼差しを目の当たりしたのが不味かったのか

やっと帰ってきたコイツに俺が最後の想いを伝えたら また家族との時間を奪ってしまう気がして。

『プニ子。』

『だから 今日は特別なんです!』

今さらながらに記憶を失った日々を悔やんだ。

『本当に美味そうに食うな。』

『美味しそう じゃなくて…美味しいんです。』

ジャケットのポケットに忍ばせた永遠の輝きに手を伸ばすことができない。

…考えすぎなのか?…

はじめて人を愛した恋愛初心者のオレには難しい問題だった。

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