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あなたの色に染められて

第35章 幸せのタネ


『ちょっと待ってよ。』

『…ん?…』

『ん?じゃないわよ。アンタ昨日 誕生日だったのよね?』

『うん。』

『それも はじめてお祝いしてもらったのよね?』

『うん。』

昨日はゆっくり来れなかったからと面会時間が始まってすぐに病室に顔を出した璃子。

赤ちゃんを抱いてそれはそれは幸せそうに微笑んで。こりゃとうとう…なんて私の心も踊ったのに

『あのね。美紀のお見舞いに来たでしょ?それから夏樹さんのお店でスペシャルディナー食べてぇ。たくさん二人でお話しして。』

『それで?』

『それで?…お家に送ってもらったよ。』

たぶん溜め息ってこういう時に吐くんだって思った。

『…プレゼントとか…そのサプライズみたいのはなかったの?』

『ないよ。』

欲がないって素晴らしい。普通の女の子だったらプレゼントを貰えなかったことに腹をたてるはず。

璃子だったからいいものを…まったく京介さんもなに考えてるんだか…。

ずっと二人で過ごすことができなかった誕生日。

やっと迎えた誕生日じゃなかったの?

昨日が絶好のチャンスじゃなかったのぉ?

『赤ちゃん可愛いねぇ。』

…はぁ…。まったく璃子も璃子だよ。

『璃子は赤ちゃん欲しくないの?』

『そりゃ欲しいよ。こんなに可愛いんだもんねぇ。』

こうなりゃ鈍臭い璃子にストレートに聞いてみるしかない。

『京介さんと結婚しないの?』

でもそれは璃子らしい答えで

『私が決めることじゃないでしょ?今 京介さんも仕事忙しいし…そんなこと考えてる暇なんてないよ。』

本当にこの子は人の気持ちを最優先させる健気な子で。いつもそう 自分のことなんて二の次三の次。

『いいの?それで…。』

『…うん。一緒にいてくれればそれでいい。…いつか選んでもらえたらそれで…。』

自分の株をあげようと わざとらしく“遠慮がちに答える女”っているけど 璃子はいつもそう これが本心で。

だからだね。みんな璃子には幸せになってもらいたいって心の底から思ってて

『ねぇ…名前決まった?』

『まだよ。直也が字画を気にしてね。本やらパソコンやら必死で調べてる。』

『よかったねぇ。素敵な名前がつくねぇ。』

とりあえず今度京介さんに会ったら説教ですな。

胸に抱く赤ちゃんに話しかけるその優しい微笑み。

…絶対にいいママになると思うんだけどなぁ。

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