あなたの色に染められて
第36章 mistake
『おまえ それ本気で言ってんの?』
髪をかきあげながら大きな溜め息を吐く京介さんは私の手首から手を離した。
『璃子ちゃん…少し落ち着こ。』
幸乃さんは私を落ち着かせようとあたたかい手でゆっくりと背中を撫でてくれる。
私は悔しくて 悲しくてただ涙を流して。やっと二人手を取り合ってもう一度歩みはじめたのに。
時間が掛かりすぎちゃったのかな。
滅多に逢えなかったから 逢えれば嬉しくて。お互いの気持ちをぶつけることが出来なくて良いところばかりを見せつけて。
『…もういいんです…。』
京介さんにとってあの酒蔵は代々受け継がれている遺産のような大切なもの。
『何がいいんだよ。』
一週間に一度お泊まりに行って京介さんのぬくもりに触れたかっただけなのに。たったそれだけなのに。
『…たかがキャバクラ行ったぐらいで別けれるとか勘弁しろよ。』
『京介くん!たかがキャバクラじゃないでしょ?』
最初からわかってたことじゃない。この人とは釣り合わないって。それを甘えて背伸びして。
『…帰ってこなきゃよかった…。』
ずっとあのまま誰とも連絡を取らずに向こうで暮らしていればこんなに惨めな思いをしなくてすんだのかもしれない。
『…何言ってんだよ。…ったく…。』
俯き涙を流し続ける私を大きなぬくもりで包み込んでくれるけど
『…そんなこと言うなよ。』
そのぬくもりさえも今の私には苦しくて。
『…ほら顔あげて。』
だってこのぬくもりは私の一番安心する場所で。一番好きな場所で。
『…イヤです…。』
顔を上げることも 背中に手を廻すこともできない私は京介さんの胸を押して
『私にはわからないです。平気でそういうお店に行ける京介さんの気持ちが…。』
まるで駄々を捏ねてる子供のような私。
『いい加減にしろ…。仕事なの。行きたくて行ってるわけないだろ。』
『行きたくなくたって楽しんでるから「大好き」とか「プライベートでも」なんて書かれるんじゃん!』
京介さんが大きく溜め息を吐いたのがわかったけど その溜め息がなんだかすごく余裕に感じて
『京介さんなんて…大キライ!』
悔しくて思わず最後の一言を叫ぶと 京介さんは今日何度目かの大きな溜め息を吐きながら舌打ちをして
『もういい…勝手にしろ。』
『京介くん!』
スパイクの音を鳴らしながら遠ざかっていった。