あなたの色に染められて
第36章 mistake
『…イヤです…。』
わかってる…くだらない嫉妬だって。
『じゃあ ここで話す?俺は構わないけど…。』
こんなときでも京介さんは余裕があるんだ。
『本当にさ…捨て忘れただけなんだよ。嫌な気持ちにさせて悪かった。』
京介さんにとっては名刺を捨てた捨てないの問題なんだよね。
『ああいうお店って 席に着く時に挨拶がわりにくれるお店が多いんだよ。でも それだけ。電話番号交換してるわけじゃないし。』
なんだろ…違和感…っていうのかな。
行くことに後ろめたさを感じていないように思えるのは私だけ?
『…璃子はイヤなんだもんな。…今度からは気をつけるよ。』
やっぱりだよね…。私はそういうお店に行くことを平気で許せる彼女だと思ってるんだ。
『もういいです…よくわかりましたから。』
京介さんはまるで拗ねた子供の機嫌を取るように私の頭にポンと手を置いて顔を覗きこんで
『わかってねぇだろ。そんなに膨れっ面して。』
『いいえ よーくわかりました。女の子がいるお店が大好きだって。』
『…おまえなぁ。』
こんなに京介さんを睨み付けたことはなかったと思う。
『…璃子ちゃん少し落ち着いて。京介も…。』
『って言うか あんた璃子ちゃんの気持ちわかってないわね!』
私 本当に何やってんだろ。長谷川さんにも幸乃さんにもこんなに迷惑かけて。
『さっきから聞いてればキャバクラに行くことが大前提の話じゃない。璃子ちゃんはお店に行かれることがイヤなのよ。』
『…幸乃さんもういいです。…痛っ…。』
京介さんは大きく溜め息をつくと私の手首を掴んで
『そんなに信用できない?』
悲しそうなんだけど鋭い眼差し。前にも一度見たことがあった。
『…女の子と仲良くお酒呑む場所なんですよね?』
『だから…そういう理由で行ってるんじゃないって。』
色んな想いが心に溢れてくる。
『じゃあ何で行くんですか?』
『わかんねぇかなぁ。これも立派な仕事なんだよ。』
仕事って言えばどうにでもなるの?
『…って言うかさ。知らないなら…俺の仕事にいちいち口出すなよ。』
『京介!それは言い過ぎ。』
涙が溢れたのと同時に私の心の何かがプチっと切れた。
我慢したのに…絶対に落とさないって頑張ったのに。
『…そんなに行きたいなら…私と別れてその子たちと仲良くしたらいいじゃないですか!』