あなたの色に染められて
第37章 素直にI'm sorry
どのぐらい眠ったのだろう。久しぶりに響く足音で目が覚めた。
…パタパタパタ
それは俺にとっては心地いい音色。璃子がいるっていうサイン。
…夢じゃなかったか…。
眠っているときも感じた璃子のぬくもり。
璃子のことだから甲斐甲斐しく世話をやいてくれていたのだろう。
あれだけ汗をかいたはずなのに体はずいぶんとサッパリしていたし Tシャツはサラッとしてる。
おまけにこれ。
『…ガキじゃねぇつうの。』
額から剥がした少し乾いた冷却シートを見ると璃子らしさが垣間見えて自然と頬が緩んだ。
オレンジ色の光が漏れるカーテンに手を伸ばし半間分開けて暮れかかる茜色の空を見上げ
…綺麗な空だな…。
こんな余裕も出るほどだいぶ体が楽になっていた。
…カチャ。
『…京介さん?』
カーテンの音に気付いたのか 璃子が部屋の扉を開けると
『…どうですか…お熱下がりました?』
心配そうな顔つきで俺の頬に首筋に手を当て
『うん。だいぶ下がってますね。』
今度は目を細めて微笑んで。
『…あっ。でも無理は禁物ですよ。』
毛布を直しながらベッドサイドに頬杖をついてほんの少しだけ首を傾けてクスクスと笑うこいつの顔を見ていると
『…璃子…。』
『…なあに?』
帰ってきてくれたのなら熱だして正解だったかも…なんて思ったりして。
『なんですか?』
手を伸ばして前髪に指を通しながら 頬を撫でて 少し意地悪したくなるのは必然で
『俺のこと嫌いな人がなんでここにいんの?』
『…え…。』
『俺のこと大キライなんだろ?』
『…そんなぁ…。』
あの日最後に言われた捨て台詞。
俺は意地悪く微笑みながら戸惑う璃子の瞳を覗くと
『…ごめんなさい…子供すぎました。』
『…おっ…どうした急に?』
『だって…誘われたら断れないですもんね。お仕事で呑んでるんですから。だからあのときに私に謝ってたら嘘になっちゃうなって。』
『…フン…。』
『お義母さんから教えてもらったの。お酒の席で商談が決まることだってあるって。私そんなことも知らないであんな酷いこと言って…。』
口を少し尖らせながらバツが悪そうに言葉を紡ぐ璃子は新鮮だった。
『俺も言葉が足りなかったよ。ごめんな。』
後頭部に手を廻して引き寄せ額を合わせ
『…仲直りな…。』
久しぶりに二人で笑いあった。