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あなたの色に染められて

第39章 ハナミズキ


あれから本腰をいれて式場見学を再開した私たちは 1か月後 最後はお義母さんにも同行してもらってやっと会場を決めることができた。

『璃子ちゃんが言うように お料理もうちのお酒に合いそうだし 何よりも会場から見渡せるあの日本庭園が素晴らしかったわよね。』

都会の真ん中とは思えない大きな日本庭園が広がる会場に心を捕まれた私たち

和洋折衷のブライダルメニューを堪能したあとお義母さんがお墨付きを下さった。

日取りも11月の最後の大安の土曜日。酒蔵が一番忙しくなる12月前のこの日に予約がとれたことはラッキーだった。

***

お義母さんを酒蔵まで送ると 車のドアを開けながら

『ねぇ璃子ちゃん。ちょっと見てもらいたいものがあるだけど。』

『はい…。』

長い廊下を抜けた奥の客間。

京介さんが先にその部屋を覗くと一瞬顔をほころばせ 私の頭にポンと手のひらを乗せて

『「気が早ぇ」って言ってやれ。』

その笑顔の先に鎮座していたのは

『…うわぁ…。』

色とりどりの牡丹の花が咲き乱れた黒の色打掛。

『うちに代々伝わっているものなんだけどね。もし良かったら璃子ちゃん着てくれないかなぁ なんて。』

お義母さんは遠慮がちにそう言うと揃いの草履やバックを箱から出し始めた。

『ほら いつまでもそこに突っ立ってないで近くで見せてもらえば?』

京介さんの言葉に背中を押され近くに寄ってみる。

大小の牡丹の花はどれも見事なまでの刺繍が施されてそれはそれは素敵なもので

『璃子 いつまで口開けてるんだ?』

『…あっ。』

クスクス笑うお義母さんと京介さん。だってはじめてだもん。こんな綺麗な着物を見るの。

『私もこの打掛を羽織ってお嫁に来たのよ。どう?もし良かったら袖通してみる?』

『…え…いいんですか?』

***

『色が白いから黒がよく映えるわね。』

思っていたよりも重さによろめきながら羽織ると 鏡越しに写る京介さんが柱に凭れて微笑みながら

『いいんじゃない?森田の家に嫁ぐって感じで。』

この重さは酒蔵の伝統そのもので

『お式に着させていただいてもいいんですか?』

この着物のように代々受け継がれるもの。

『ぜひ!』

この家の色に少しずつ染まっていく私。

窓の外には私の家にもあるハナミズキの葉がゆっくりと揺れて

いつか私の子供にも…なんて思った。

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