
あなたの色に染められて
第40章 誰かのために
『京介くん遅い!』
扉が開くと今日の主役がやっと顔を出した。
『悪い 仕事片付かなくて。えっと…すいませーん。生ひとつ!』
最近の京介さんは土日も祝日もほとんど仕事で俺たちと顔を会わせるのも久しぶりだった。
『璃子ちゃんは?』
『お袋と二人でなんかの会合に行ってる。』
『じゃあ 大丈夫だね。』
璃子ちゃんがいない日に長谷川さんと幸乃さん、佑樹さんに美紀に俺。こっそり集まったのには理由があった。
『で なに?璃子ちゃんに内緒の話って。』
京介さんはおしぼりで手を拭きながら俺たちをぐるっと見渡して
『あいつってさ…あんなに頑固だったっけ?』
溜め息混じりに漏れた言葉は 結婚式を前にして 幸せ全開だと思ってた俺たちを戸惑わせた。
『あの璃子ちゃんが…。』
『…頑固?』
京介さんは運ばれてきたジョッキに手をかけグイッと一口喉を潤すと 今度は何か言いたげに苦笑いをして幸乃さんと美紀の顔を交互に見た。
『あいつ 結婚式のことでなんか愚痴とか言ってない?』
口にした言葉はこれまた予想もしてなかった言葉。
あの璃子ちゃんが愚痴?ただ事ではないこの雰囲気に俺たち顔を見合わせたけど それは男性陣の反応で
美紀と幸乃さんは二人顔を見合わせると溜め息混じりに苦笑いして京介さんに微笑んだ。
その二人の表情を見た京介さんはこれまた溜め息混じりに
『…やっぱり。』
ポツリと呟くと一気にビールを飲み干して項垂れた。
『何があったんだよ。』
黙って見ていた長谷川さんが肩に手をかけ優しく声をかけると
『アイツ…ウエディングドレスもケーキもキャンドルサービスも全部いらないって。』
それは女子なら誰もが憧れるであろう結婚式の鉄板ネタ。
『は?なんで?』
結婚式までもう2ヶ月を切っているというのに 京介さんのこの顔を見ると事態はかなり深刻そう。
幸乃さんと美紀は目を合わせるとまた困ったように苦笑いをして
『京介くん 私たちも言ったのよ?結婚式は酒蔵のためにするんじゃないのよって。』
『そうよ。でも璃子はあの着物を着て嫁げればいいからって。自分のことよりも酒蔵のことばっかり。』
京介さんは俯くむと小さなこえで
『…俺…幸せにしてやれんのかな。』
自信なさげに微笑む京介さん。
この人は本当に璃子ちゃんのことになるとダメな男になるんだ。
