あなたの色に染められて
第40章 誰かのために
『あら 温泉まんじゅう?』
『すみません。皆さんがお仕事してるのに…。』
『いやいや…璃子ちゃんは夏休みもろくに取らないで働いてくれてたんだから。』
店も結婚式のことも ある程度落ち着いた11月の中頃。
家族水入らずで旅行に行ってきた璃子が 仕事帰りに俺の実家にお土産を持ってきた。
アメリカから帰ってきても 酒蔵の仕事に追われる日々。
嫁ぐ前に家族旅行でもと 気を利かせた親父とお袋
『どうだった?ゆっくりできたかい?』
『はい。お宿のお風呂がとても良くて 父も母もとても喜んでくれました。』
あと二週間でコイツはうちに嫁いでくる。
親父もお袋も璃子のことをずいぶんと可愛がってくれて
『璃子ちゃん 本当に必要なものないの?』
『はい。京介さんのお部屋に全部揃ってますから。』
『でも…冷蔵庫とか電子レンジとか 少しいいヤツに替えたら?京介が一人暮らししてるときから使ってるのでしょ?』
お袋も何かしてやりたそうなんだけど 相変わらず値だらないコイツ。
もう少し広い部屋に引っ越そうかと提案しても首を振り、ならば新しい家具を新調しようかと話しても首を振り…。
『まだまだ十分使えますから。』
と 相変わらず欲がないのか遠慮してるのか
***
『少し冷えますね。』
京介さんのご実家でお酒を頂いた私たちは夜風がだいぶ冷たくなった夜道を 温もりを分け合うように指を絡めて歩いた。
『おまえ 本当に遠慮すんなよ?必要なものはちゃんと俺に言えよ?』
『ちゃんと言ってますよ?』
今のままで私は充分なのに…。
大好きな人の元へ嫁ぐ私。
久しぶりにママと二人で入った温泉でたくさん話をしたね。
“愛する人ができたら 愛する人のために生きなさい。愛する人の笑顔が一番の幸せだから。”
ママはいつものように優しく微笑みながら私にそう説いてくれたね。
今日泊まったら 名字が替わるその日までお泊まりはお休み。
『なぁ 璃子。』
『なぁに?』
違うか…。もうお泊まりじゃないんだよね。
『帰ったら風呂一緒に入るぞ。』
『え~!』
グイッと肩を引き寄せられると ニヤリと意地悪に微笑んで
『ダンナさんの言うことが聞けないわけ?』
愛する人のためね…。
『じゃあ…電気消してくれるなら…。』
俯く私はいつになったら馴れるのか…。