あなたの色に染められて
第7章 I miss you
『ご飯出来ましたよ~。』
『美味そう!』
ここ最近野球の練習が早めに終わると球場から程近い彼の家で手料理を振る舞うことが多かった。
『さ、どうぞ。』
『いただきます!』
今日のメニューは京介さんの大好物の唐揚げと大根の煮物にほうれん草のゴマ和え、そしてアサリのお味噌汁。
『どうですか?』
『旨い。すげぇ旨い。』
箸を止めることのない彼を見て私も唐揚げに箸を伸ばす。
二人で何気ない会話に花を咲かせながら箸を進め、京介さんがおかわりの茶碗を差し出したのと同時に
『俺、転勤することになったんだ。』
『え?』
とても大切な話をわざとらしくサラッと言葉にした。
『実はずっと品川の本店に移動願い出しててここでやっと誘われて。』
たしか彼の勤める信用金庫は全国で5本の指に入る大きな信用金庫の中でも都市銀行に負けないランク
『本店なんてすごいんじゃないですか!おめでとうございます!』
もっと遠くに行ってしまうのかと一瞬戸惑ったけど品川ならたぶん通勤圏内
心のなかでホッと一息つくと
『俺、地元の企業相手の融資の仕事がしたくて入ったんだよ。』
『じゃあ、これから大変になりますね。』
『そうなんだ。土日も融資相談会とか接待とか入るみたいて璃子に会える時間が…』
そうだよね。本店の融資担当なんて花形のポジション。会える日が減るのはしょうがないよね。
『ゴメンな。』
京介さんはお茶碗を受けとると私に頭を下げた。
『なんで謝るんですか?私は素直に嬉しいですよ。』
『璃子…』
『だって、その部署で働きたかったんですよね?頑張って下さい。私は大丈夫ですから。』
彼は肩の力を抜いてフッと笑うと
『ありがとな。そんなこと言ってもらえるとは思ってなかったよ。』
球場に居るときからおかしいなと思ってた。
急に口数が多かったり極端に少なくなったり。
きっと私のことを思ってなかなか口に出せなかったのかもしれない。
今までは病院でも会えたのにそれさえもなくなってしまうのだから寂しいけど
『会えるときは連絡下さい。球場でも京介さんのお家でも飛んでいきますから。』
ここはグッと堪えて彼の夢を応援するしかない。
『絶対に飛んで来いよ。』
『もちろんですよ。』
一安心した彼はまた大好物の唐揚げに手を伸ばす。
私はそれだけで十分だった。