あなたの色に染められて
第7章 I miss you
あれから1週間後 京介さんは新しい営業担当さんを連れて事務長に引き継ぎの挨拶をしにきた。
今日が病院で会える最後の日。
でも、私にはお疲れさまと声を掛けることも出来ない。
それは、お姉さまたちが最後とばかりにスマホ片手に連絡先の交換をしようと常に引っ付いていたからだ。
…私の京介さんなのになぁ
そんな光景を私は頬を膨らませながら眺めていた。
…聞き分けよすぎちゃったかな。
本音を言えば 今のように数分だけでも毎日彼に会いたいし、土日は彼と二人で過ごしたい。
でも、わがまま言っても困らせてしまうし
今日が最後か…我慢できるかな…
ずっと彼を視線で追うけどこんなときに限って目も合わないなんて…
こんなんじゃ先が思いやられるなぁ
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『ヨイショ!ボールここで…』
『璃子ちゃんありがとう!持ってきてもらった接いでで悪いんだけど もうすぐ休憩だから麦茶の用意お願いしてもいいかな。』
『はぃ。』
仕事が半日で終わる土曜日 私は京介さんのぬくもりを確かめたくて一人で野球のお手伝いに来ていた。
『相変わらず京介は忙しそうだね。』
声を掛けてくれたのは京介さんの先輩の長谷川さん。
『はい。』
長谷川さんはこのチームのリーダー的存在で誰もが慕っていた。
『あんまり無理すんなよ。』
『ありがとうございます。』
彼が転勤してから2週間覚悟はしていたけど全く逢えていなかった。
『璃子ちゃん淋しいでしょ?』
コップを片付けながらひとつ溜め息をつくと直也さんが汗を拭きながら私の横に座る。
『大丈夫です。ちゃんと連絡は取ってますから。』
毎日メールや電話は欠かしていないけど
『京介さんモテるから。油断してると…』
『あっ。そういうことも…あります…よね』
あのルックスだもんね。私はさっきよりも大きな溜め息を1つ吐くと
『ゴメン!ゴメン!璃子ちゃんは我慢しすぎ。美紀にならって京介さんにちゃんとわがまま言わなきゃダメだよ?』
そう言って私の肩にポンと手を乗せてグラウンドに走っていった。
…わがままか
もし今ひとつだけ言えるとしたなら
『…逢いたいな。』
たったそれだけ。