あなたの色に染められて
第9章 jealousy
『失礼しまーす。お呼びですか?』
私は今 循環器外科の医局にいる。
『悪いんだけどこのカルテ事務所に持ってって。それと食堂のメシも12時キッカリに運んどいてくれる?』
『はい、12時ちょうどですね。他に何かありますか?』
『とりあえずそれでいいや。用事あったらまた内線するから。』
彼が転勤した10月
私も入職して半年を迎え、任せてもらう仕事の量も増え毎日忙しくしていた。
特に月はじめの10日間はレセプトを完成させるのに必死で気がついたら22時なんてザラ
『あ、そう言えば俺のドクターコート無いんだけど。』
この循環器外科の川野先生の担当も増えたお仕事のうちのひとつで
『ここにありますよ。』
『そこかぁ。』
書類の手続きの用意をしたりどこかに連絡を取っておいたり…平たく言えば雑用係かな。
『璃子、そのカルテ取って。』
『高円寺』と5文字も喋るのは面倒だからと就任初日の一発目から『璃子』と呼び
『ハイどうぞ。』
『悪いそっちも。』
『ハイハイ。』
まぁこんな感じでこのドクターの担当になってから忙しくなったわけで
一人前になってきたっていうのかな。少しずつだけどいろんな意味で成長できていた。
*
『あ、高円寺さん。忙しいところ悪いんだけど川野先生にこれ持ってってもらえる?』
そう言って先生のお昼御飯を持っていこうとする私に 事務のお姉さまが書類一色を私の前に差し出す。
『いいですよ。』
『ありがとう! 私あの先生苦手なのよ。かっこいいけど無口でさぁ。人を上から見るような目線っていうの?書類持って行ってもありがとうもないじゃない?』
私には感じないけどこれが事務所のお姉さまたちの反応
『あんなドクターの担当じゃ大変だと思うけど頑張ってね。』
そうなんだ
この川野先生はイケメンでまだ30代前半なのに腕がたつ心臓外科のホープ
でも…愛想がなくて上から目線だから事務所のお姉さま方にもあまり人気がない。
確かにオレ様気質で愛想もないけど
…コンコン
『失礼しまーす。』
12時ちょうどに持ってこいと言ってたのに 机の上には今日のオペの資料の山
『ここに置いときますね。』
患者さん思いのいいドクターなんだけどな。
『失礼しました。』
…ヤバい早く行かなくちゃ
静かにドアを閉めて京介さんの待つ球場へと向かった。