あなたの色に染められて
第9章 jealousy
半日で仕事を終え駅から球場までの道を急いで来ると 入口で長谷川さんに会った。
『璃子ちゃんお疲れ~!仕事だったの?』
『はい!遅くなりました!』
明日は草野球大会の準決勝。
『京介が寂しそうに待ってたよ。』
甲子園を目標に掲げていた強豪校のOBが集まるこのチームは大差をつけて勝ち進んできてる。
…逢えるんだ。
今日は久しぶりに京介さんも練習に参加する。
早く気持ちを抑えて
『お願いしまーす』
グラウンドの前で一礼しいつものようにベンチへ荷物を置いて彼を探すけど…
…いない?あれ?まだ来てない?
どこをどう探しても彼の姿は見つからない。
『璃子ちゃん麦茶もらえる?』
『はい…ちょっと待ってください。』
彼が来るまでいつものように麦茶の用意をして
『ボールここにありまーす!』
ボールをカゴに振り分けて
…どこ行ったんだろう。
スマホを握りしめながらベンチに座ってグラウンドに目を向ける。
…あっ!
すると反対側の三塁ベンチ横から京介さんがコンビニの袋をぶら下げて入ってくると
…え
『ちょっと~!京介っ!』
…誰?
京介さんは反対側の一塁ベンチにいる私に目も向けず綺麗な女の人と並んで座った。
…京介さん?
『…子ちゃん?璃子ちゃん? 』
…どうして?
『あっ。ゴメンナサイ!』
『コップある?』
…どうして?
『ありますあります、ゴメンナサイ。』
私は変にドキドキする胸の鼓動を抑えながら佑樹さんにコップを差し出すと
『あー遥香ね。』
飲み干したコップで三塁ベンチを指しながら
『俺らの代のマネージャーで…』
『で?』
佑樹さんは立ち上がりながら私の肩に手をポンと置いて
『…佑樹さん。』
何も言わずにグラウンドに走っていった。
…本物のマネージャーさんか
私が今してることはマネージャーの真似事。
…遥香さん
始めて聞くその名前の人は遠くからでもわかる。
たぶん綺麗な人
あの人には…勝てない…
何でだろう、ふとそんな言葉が頭をよぎった。
今 私の瞳に映るのは京介さんの体をペシペシ叩きながら楽しそうに話す二人
彼女の私は一人で反対のベンチに座ってる
…京介さん、私ここにいるよ。
胸の中で言葉を紡いでも聞こえるはずはない。
『璃子ちゃん?』
私はあのときのようにここから逃げた。