あなたの色に染められて
第11章 ご挨拶
『10時までに明日のオペに必要なカルテと写真、カンファルームに。それと午後のオペのことで麻酔科のドクターと話したいから俺のピッチに電話くれるように伝えて。』
『カンファは10時で、麻酔科のドクターに連絡と…』
毎朝 二人だけで行われる儀式みたいなもの。
『それと白衣は?クリーニング上がってないの?』
『だからここにありますって。』
毎度のことながら資料の下敷きになってしまってる白衣を引き抜いて
『昼飯は必ず12時に持ってきておいて。』
『わかりました。』
いつものように 上から目線で指示を出す先生にもだいぶなれた今日この頃
メモ帳に言われたことを書き込んでいると
『で、泣き虫璃子ちゃん。その週明けから不細工な顔してどうしたんだよ。たしか先週もそんな顔してたよな?』
昨日 酔った勢いで嬉し泣きしたのが影響してか 朝からパンパンに浮腫んだ顔はこのドクターには隠すことができなかったらしい。
『やっぱり浮腫んでますよね。』
必死にマッサージしてなんとかメイクでカバーしたつもりだったんだけど…
『浮腫んでるって言うよりその泣きましたっていう目だよ。彼氏となんかあったのか?』
『へっ?…どっ…どうして?』
『ったく、へっ?じゃねーよ。』
あのいつも上から目線の先生が……笑った。
『…。』
『なんだよ図星かよ。泣かせるような男なら早めに切っちゃえよ。』
クスリと笑って私の顔を覗き込む先生の笑顔に
『だから…そんなんじゃないですって。』
なんでだろ、変に反応してしまう。
『おまえは本当にに面白いな。やっぱ俺の目に狂いはなかったな。』
…え?
消去法で私になったんじゃなかったの?
頭のなかにハテナマークをたくさんならべていると
『それより11月の真ん中辺りちゃんと開けとけよ?』
『どうしてですか?』
確か その辺は学会があったはずなんだけど…
『あれ言ってなかったっけ?学会におまえも連れてくから。』
『えー!ちょっと聞いてないですよ!』
『そうだっけ?』
学会って確か北海道で一週間近くあったよね?
『他にも誰かこの病院から行くんですか?』
『オレらだけ。』
…マジか
明らかに落胆する私を見て先生は
『まぁ、オレの担当ってことで諦めて。』
決定事項だとなんだか楽しそうにそう告げた。