あなたの色に染められて
第2章 はじめの一歩
…来た
あの日から集金に来る度に目が合った。
京介さんはみんなに気づかれないようにこっそりと手を振って優しく微笑んでくれるけど
その度に私の胸は音を立て頬が染まる。
私の心はゆっくりだけど一歩ずつ前へ歩みだしていた。
*
約束の日は仕事が半日で終わる土曜日。夜勤明けの美紀とは18時に駅に待ち合わせなので一度家に戻って支度をしてから駅へと向かった。
『ゴメン!何着たらいいかわからなくて。』
『ううん、私も今来たとこ。あっ、それこの間 買ったって言ってたワンピース?』
『そう。…変?』
『ううん璃子らしいよ。似合ってる似合ってる。』
クローゼットの中の洋服を全部出したって言っても過言ではないぐらいに今 私の部屋は洋服で散乱してる。
迷いに迷った私が最終的に選んだのは初任給で買ったアイボリーのシンプルなワンピース。
『そのネックレスも可愛いじゃん。』
『ホント?子供っぽくない?』
ヒラヒラとスカートを翻しながらも私は不安でいっぱいで。
『美紀はスタイルもいいから何着ても似合うよねぇ。』
美紀はストライプの襟の高いシャツに黒いタイトスカートを併せた 背の小さい私には着こなせない大人コーデ。
『今さら身長のことを気にするな。』
『は~い…。』
胸に手を当て何度も深呼吸しながら待ち合わせ場所の居酒屋まで歩いた。
『いい?行くよ。』
指定されたお店はとても柔らかい雰囲気の居酒屋
『ちょっと待って もう一回…』
大きく深呼吸をして飛び出しそうな心臓を抑え込み 胸に手を当てて店内を進むと
…あっ
彼は私たちに気付くとあの優しい笑顔で手をあげて
…わぁ
紺色のポロシャツにベージュのチノパンを併せただけなのに いまだに野球をやってるせいなのかちゃんと筋肉も整っていて
…格好いい
ポロシャツだけなのにスーツの時ともジャージの時とも違う色気を醸し出していて
『どうぞ。』
ソファーをポンポンと叩いて
『…え、隣で…すか?』
この間はすんなりと座れたのに今日はまた緊張してしまって
『じゃあ 直也の横?』
意地悪に微笑むその顔は私には受け止めきれないほどで
『イヤ…それは…』
『じゃ 俺の隣ね。』
…まただ。強引なんだけど優しくエスコートしてくれる。
『…失礼します。』
また一歩前に進めた気がした。