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第2章 嵐


嵐の海──。

木の葉のように揺れる船に
貴方はいた。

貴方は、海に投げ出されまいと、
必死に船にしがみついていた。

荒れ狂う波が白い牙のように
何度も何度も貴方を襲う。

私は、波間に見え隠れする
貴方の姿を見失ってはと、
ただ、ただ、岸から必死だった。

叫んでも、叫んでも、
私の声は、風に、波に、
掻き消された。

そして次の瞬間、
大きな波が引くと、
そこに貴方の姿はなかった。

全身の力が抜け、
身が震え、
狂ったように叫んだ。


『───ーー!!』






自分のあげた声で、目が覚めた。
涙が、泥のように流れていた。

昨夜、そばに居た貴方の姿は無く、
シーツには温もりさえ残っていなかった。

何でもいいから、
昨夜、貴方が此処に居た証を見つけたくて、
部屋中、見廻したが、
『貴方』は、何処にも無かった。

徹底している、
それが貴方の優しさと知りつつも、
云いようのない切なさが
胸を突いて噴き出してくる。

私は手探りで枕元の携帯を手にし、
着信履歴から貴方に発信する。

コールを重ねるごとに
不安が募り、切ろうとした時、


『‥‥はい』

寝ていた声だった。




『アタシ、』

意識して小声で発する。


『……ん、どうした?』

いつもと変わらない柔らかい声が
耳に滑り込んで来た。



一瞬で、泣きそうになった。


『怖い夢、みたの…』



──甘えた事なんか無かった。


貴方を困らせる事なんて、
一度もした事なかった。
それは我慢とかじゃなくて、
いつだって、いい子で居るのが、
私のプライドだった。

そして、
こんな付き合い方をしている
私の防波堤だった。


「そうか、‥‥そうか。」


貴方は、ただそう云った。

私は、それだけで
真綿に包まれたようだった。






「ーーーダレ?」


彼の携帯の向こうで、
聞き慣れた声がした。


咄嗟に、
私は携帯を切り、頭から布団を被った。

震えが、止まらなかった。



嵐を起こしてるのは、
私だね…

















ごめん、涼子。
       
end.
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