煩悩ラプソディ
第10章 星に願いを/AN
「おーい、ロケ始まりますけどー」
前方から聞こえた声に寸前で踏み留まる。
慌てて顔を向ければ、翔ちゃんが入り口から顔を覗かせていた。
「…チュウはダメでしょ、チュウは」
わざとらしいじっとりした視線を俺たちに送ると「急いでよ」と催促して去っていった。
途端に二人して顔が赤くなる。
どちらともなく体を離し、その微妙な距離感に気まずさを隠せない。
と思ったらまた、入り口から翔ちゃんがひょこっと顔を出し。
「あと智くんも起こして!マジで始めるから」
…え、リーダーまだ居たの!?
翔ちゃんのその言葉に慌てて辺りを見回すと。
俺たちの数列奥、最後部席の窓際に小さな頭が見え隠れしていて。
近寄ると、窓に凭れて目を閉じているリーダーの姿が。
しかし、その瞼はピクピク動いていて明らかに無理やり目を瞑っている。
「…リーダー」
イヤな予感がしつつポツリ声をかけると、パッと目が開いてぶふっと吹き出した。
「うわやっぱ起きてた!
え、聞いてた!?今の」
「…うん、聞いてた。や、起きたら二人で抱き合ってたからどうしようかと思ったもんマジで」
ほんとに焦ったような顔でそう言うリーダーがなんかおかしくて、にのも俺も爆笑した。
「つか、こんなとこですんなや!」
「や、それはごめんなさい!」
大げさに突っ込むリーダーに車内が幸せな笑いに包まれる中、再び入り口から大きな声が。
「おいお前ら!早くしろっつってんだろ!」
ステップに足をダンッ!と乗せて、ヒリヒリモード寸前の松潤からの一喝。
「やべっ、は〜い…」
小さくなった三人でいそいそと通路を進もうとすると、ふいに後ろから右手を掴まれた。
振り向くと、にのがにっこりと笑ってぎゅっと手を握り直してくる。
その唇が、
"すき"
と、動いたのが分かって。
赤くなる顔を自覚しながら照れ笑いで返し、ぎゅっと手を握ったままロケバスを降りた。
夢から現実への境界線はまだ曖昧だけど、全て切り離されたワケじゃない。
…夢から醒めない想いだって、あるんだから。
…そう。
"大切なモノ"が、わかったんだ。
end