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煩悩ラプソディ

第11章 始めの一歩/SA






五日間の一時帰宅はあっという間で。
今日、かずたちは病院に戻る。


あのイヴの日は子どもたちも完全に眠っていたので、そのまま我が家に泊まることになった。


翌朝、用意していたプレゼントに歓喜の声を上げる二人にさらに追い打ちをかけるニュースを告げると。


「え!いっしょにすむのー!?」

「うそ!やったあー!」


手を握り合ってピョンピョン飛び跳ねながら、嬉しさを体いっぱいに表現した。


そんな二人を見て櫻井さんと見合って笑う。


そこへ、潤君が櫻井さんに飛びついてきてクリクリの目で見上げた。


「パパ!ぼくのおねがいかなったー!」

「ん、そうだな?
潤がいいこにしてたから叶ったかもな?」


そう言って潤君をひょいと抱き上げる。


すると、かずが俺に近寄ってきてしゃがむよう手招きした。


言われたまましゃがんだ俺に、かずがそっと耳打ちしてきて。



”おとー、よかったね”



それだけ言うと、そのまましがみつくように首に腕を巻きつけ抱っこをせがんだ。



かずの耳打ちの真意はなんだったんだろう、と移動中の車内でぼんやり考えていると、助手席の櫻井さんがおもむろに口を開いた。


「…呼び方変えます?」


唐突な言葉に何のことを言ってるのか分からず、ちらっと一度見遣ってまた運転に集中する。



「…雅紀、さん?」

「えっ!?」


急に下の名前で呼ばれて危うく中央線をはみ出しそうになった。


「いや、一緒に住むから…
苗字だとなんか…」


言いながら語尾が消えていく櫻井さん。
多分、いま赤い顔してる。


その様子がおかしくてふふっと笑う。



「そうですね…じゃあ、翔ちゃん?」

「えっ、なんで”ちゃん”付け!?」

「だって可愛いから」


ちらっと横目で覗き見たその顔は案の定赤くなっていた。



後部座席で寄り添って眠る子どもたちをルームミラー越しに眺めて、これから俺たちに待っている未来に想いを馳せた。



どんなことがあっても、
この子たちを守っていく。



どんなことがあっても、
この人の傍にいる。



俺たちは…



家族になったんだ。




ーそんな俺たちが家族としての一歩を踏み出せるようになった話は…
また、いつか。




end

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