煩悩ラプソディ
第11章 始めの一歩/SA
「…相葉さん、覚えてますか?」
しばらくの間のあと、絞り出すように繋げた言葉。
「潤の、願い事…サンタさんへの」
ゆっくりと顔を上げた櫻井さんの目にはまだ涙が溜まっていて。
「…叶えてあげて、くれませんか?」
潤君の願い事、それは…
”かずくんとかぞくになりたい”
「…櫻井さ、」
「分かってます、無理なことは分かってるんです…
でも、どうしても叶えてあげたいんです」
俺の言葉を遮るように、その確かな眼差しを向ける。
「潤には、かずくんが必要なんです…今日の二人を見ていて確信しました。それに…」
そこまで言うと、一瞬目を伏せて躊躇いがちに続けた。
「これは…僕の願いでもあるんです」
…え?
その言葉に、自分の耳を疑った。
「相葉さんに会う度に、この想いは強くなっていって…
さっき、かず君に先に言われちゃいましたけど」
眉を下げて微笑むと視線をこちらに向けて。
「僕は…
相葉さんに…あなたに、
傍にいてほしいんです…」
はっきりと告げられたその言葉。
頭の中で何度もリフレインされる。
それは…
つまり…
「…櫻井さん」
暗がりの中に浮かぶ居間の壁掛け時計を見て小さく意を決した。
「俺…今日、誕生日なんです」
「え…」
「だから…俺の願い事も、聞いてもらえますか?」
椅子をずらして櫻井さんに正面で向き合う。
深く息を吸って、ふぅっと吐いて。
「俺の…俺と、かずの…
家族になってください」
真っ直ぐに見つめて、静かにそう告げた。
一瞬驚いた顔をした櫻井さんの目からは次々に綺麗な涙がこぼれ出して。
”はい”
と、小さく返事が返ってきた。