煩悩ラプソディ
第12章 権力ハニー/AN
静かな部屋に加湿器から出る蒸気の音と、キュッキュッとペンを走らせる音が響く。
俺は今、こたつの天板の上に散らばった真っさらな年賀ハガキとの闘いに没頭している。
今年はCMキャラクターに起用されたことで、更に年賀状を書く手にも気合いが入り。
ちゃんと25日までに出さなきゃ"年賀状ください"なんてどの口が言うんだって話で。
なんて、自分にプレッシャーをかけつつペンを走らせる。
そこへ、風呂から上がってきたにのがよれたスウェットを着てぺたぺたとフローリングを歩いてきた。
「…うわ、そんな書くの?」
「うん、毎年こんくらい書いてるよ?」
「そうだっけ」
こたつにかじりつく俺を横目に。
冷蔵庫から持ってきた缶ビールのフタを開けながら、すぐ後ろのソファへと腰を下ろす。
いつもなら流れるようにゲームのスイッチを入れる動作をするのに、今日はなぜかリモコンを取りテレビをつけた。
ハガキに宛名を書きながらなんとなく聞いてみる。
「…ゲームは?」
「あ、今日はしない」
「え、なんで?」
「え、なんで?」
聞いたらそのまま返された。
や、俺が聞いてんだけど。
首を捻って振り返れば、にのはソファの上にあぐらをかき背凭れに背中を預けてくいっとビールをあおっていて。
「や、珍しいなって思って」
「そう?俺だってゲームやんない日くらいあるよ?」
「ははっ、嘘つくなってば」
「は?嘘じゃないし」
とぼけた顔のにのに含み笑いながら、またハガキに向き直りせっせとペンを走らせていると。
「ねぇ相葉さん、」
「んー?」
「ビール飲む?」
「…んーん、今はいい」
後ろから聞こえたにのの問いに、手を動かしながら間延びした返事を返す。