煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
誰も居ない部屋。
俺たち以外には、誰も。
そっと歩み寄り、優しく抱き締める。
どちらのものか分からない鼓動が頭の中を支配していく。
身体を離し、ゆっくりと目線を上げると。
ほくろのある顎。
薄いくちびる。
上気した頰。
そして、揺れて潤んだ瞳。
視線を絡ませると薄いくちびるが微かに動いて何かを呟いた。
と同時に、ゆっくりと顔が近づいてくる。
睫毛を揺らし、儚げな薄茶色の瞳が閉じられて…
ジリリリリリリーーーー!
突然の大音量にパッと目を見開く。
頭の上で鳴り続ける音を手探りで消し止め、その手で目を覆った。
…またか。
ベッドに体を投げ出したまま、げんなりした気分でハァと重いため息を吐く。
ーここのところほぼ毎日、にのが夢に出てくる。
昨日もその前も、ほんとに毎日のように。
しかも、その内容が内容で…。
にのと俺がキスをする…寸前の夢。
いつも、にのの顔が近づいてきて目を閉じようとした時に目が覚める。
…そして、毎朝この有様だ。
そろりとそこに触れると、熱を帯びて痛いくらいに主張していた。
体を起こし改めて目視確認すれば一層に気持ちが滅入ってしまう。
…にの、すまん…。
そう心の中で謝罪して、気だるい体でトイレへ向かうのがここ最近の朝のパターンになっている。
男相手に、しかもずっと一緒にいるヤツに俺はなに考えてんだ。
そんなに溜まってんのか、俺。
中坊じゃあるまいし…。
しかも相手はにのだぞ。
…いや待てよ、
これってやっぱ…
…そういうこと、だよな。
……え?俺ってソッチなの!?
毎朝こんな自問自答の繰り返しで、なんにも解決していない。
残るのは、脳裏に焼きつくにのの顔と罪悪感だけ。
どうしちゃったんだろ、俺…。
考えれば考えるほど負のループに引き込まれそうで、それを振り払いたくて勢いよくトイレの水を流した。