煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
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にのが夢に出てくるようになってから、実は会うのは今日が初めてだ。
どんな顔して会えばいいんだろう。
…いや、勝手にあんな夢見てる俺が悪いんだけどな。
少し緊張しつつ楽屋のドアを開けた。
「…おはよっす、」
キャップを脱ぎながらそう言うと、あちこちから挨拶が返ってくる。
無意識にいつもの席を見遣ると、にのが居ない。
顔を合わせることに心の準備がまだ出来切ってなかったから、少しホッとした。
…今日は隣やめとこ。
極力ヤツとの接触を避けたくて、テーブル席ではなくソファの方へ足を進めた。
バックレストに凭れて、ふぅとひと息つく。
ーこういうのって、みんなに話したらどんな反応すんのかな。
笑われるよな、絶対。
松潤なんか"気持ちわりぃ"とか言いそう。
テレビ的にはネタになりそうだけど、オレ的には全然笑えねんだよな…。
というか…
この胸のモヤモヤはなんだ?
「あ、おはよ。いつ来たの?」
ぼーっと考えていると、ふいに頭の方から声をかけられた。
見上げれば、にのがソファの脇に立ってコーヒーのカップを口元に運ぶところだった。
「あ…今さっき、」
言いながら明らかに心臓が高鳴るのが分かる。
心の準備、やっぱまだ全然できてなかった。
「…なんでこっち?今日」
右手をポケットに突っ込んで、コーヒーをずずっと啜りながら軽く問いかけてくる。
「え?や、別に…なんとなく」
まっすぐこちらを見る視線に耐えられず、目を逸らして鼻を触りながら答えると。
「…ふーん、」
少しの間のあと、口を軽く尖らせて短くそう言ってからクルッと反転してスタスタとテーブルの方へ歩いていった。
小さな猫背を眺めながら、誰にも聞こえないくらいのため息を吐く。