煩悩ラプソディ
第1章 それはひみつのプロローグ/ON
今日はレギュラーの収録日。
楽屋に入っていつもの席に座って、いつものように滑らかな動作でゲームのスイッチを入れる。
…あ、コーヒー飲も。
液晶からは目を離さずに、入り口近くにあるコーヒーメーカーへと足を運ぶ。
寸前でドアが開いたかと思うと、眠そうな顔の男がノロノロと入ってきた。
「…お、おはよ。もう来てんだ」
目の前にいた俺に少し驚きつつも、未だ眠そうな顔を少しだけ緩ませてそう言う。
「…おはよーございまー…す」
抑揚のない声でそう告げ、一瞥してすぐ液晶に視線を戻しクルリと元居た場所へ戻ろうとした。
すると、後ろに引っ張られるような軽い衝撃。
振り向くと、左手で俺のパーカーの裾を引っ張っている。
「コーヒーでしょ?俺も飲むから」
右手でコーヒーメーカーを指して軽く微笑んで。
…あぁ、もう。
なんなのよ、それ。
じんわりと顔に熱が集まりそうになったから、それを隠すようにまた液晶に視線を戻して歩き出した。
「大野さん俺のもお願い」
「あ、なんだよお前」
そっけなく俺がそう言ったもんだから、少し拗ねたような声が後ろから聞こえた。
コーヒーを淹れようと俺があの場所に居たことをあの人にはすぐ気付かれた。
視線は下に落としつつも意識は完全にもっていかれていて。