煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
《おまけな大野先生》
「せんせぇーっ!」
呼びかけられて振り向けば廊下の向こうから元気に走ってくる二人が。
息を切らして俺の前まで来ると、ボスっとしがみついてきた。
「ただいまぁー!」
「ただいまぁせんせぇー!」
「おかえり。楽しかった?
ちゃんとお父さんたちの言う事聞けた?」
二人の頭を撫でながら聞くと、和也君が一瞬固まってすぐニッコリと笑う。
「うん!ね、じゅんくん!」
「あっ、うん!だいじょうぶだった!」
必死に訴えてくるのがおかしくてふふっと笑みを溢す。
すると、和也君が"あっ"と思い出したような顔をした。
俺の手を引っ張ってしゃがむように促すと、和也君がふふっと笑いながら耳打ちしてきて。
『あのね…
おとーとパパね、ちゅーしてたよ』
小声でそう告げられ、思わず顔を向ける。
「えっ、マジで!?」
ふふふっと両手で口を覆った和也君がこくんと頷いた。
マジか…
やったじゃん、櫻井さん…
つか、その気にさせんのも苦労するよほんと。
ま、ウソも方便だな…うん。
「せんせ、ぜったいひみつだよ!」
念を押す和也君の横で、赤い顔の潤君が何か言いたそうで。
ん?と顔を傾けて覗き込んだ時、後ろから聞き慣れた声が。
「なにが秘密だって?」
「あ!まつおかせんせぇだ!にげろー!」
俺の肩越しに目を向けた和也君が大きな声でそう言うと、潤君の手を引いて一目散に駆けて行った。
「あ、廊下走んなお前らっ!」
小さくなる後ろ姿に叫びながらチッと舌打ちしたその主を、下から怪訝に見上げる。
「…も〜なんなんすか」
「何がだよ。大野お前な、あいつらいっつも走ってんの注意しろよ、危ねぇんだから」
白衣のポケットに手を突っ込んで、大きな目でギロッと見下ろされる。
「…それはアンタの役目でしょ」
「あぁ⁉︎お前先輩に向かって口答えか⁉︎」
立ち上がりながら横目でそう言うと、まるで警察犬のように噛み付いてくる。
あーあ…潤君なんか言いたそうだったのに。
うまくいったかな…?
「おいお前聞いてんのか?」
「聞いてますよ…あ、外来の時間だ。
じゃ、失礼しま〜す」
腕時計を見てペコリとお辞儀をしてから足早に診察室へ向かった。
…がんばれ、櫻井親子。