煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
側にいた母親に促されリュックを下ろした優太は、ずるずるとパーカーを引き出しながら口を開いた。
「にのちゃん、これ…」
「お、自分で返しに来たの?えらいなぁ」
よしよしと頭を撫でられ照れくさそうに俯いてから、ずいっとにのにパーカーを押しつける。
「…ありがとお」
「ん、どういたしまして」
ニッコリと優しい笑顔を向けるにのに、優太は再びパーカーごとぎゅうっと抱きついて幸せそうに笑った。
その何とも微笑ましい光景を眺めながら、一緒になって笑えている自分に気付く。
優太との二日間、こんな小さな子ども相手にひとりでヤキモチ妬いて空回りしてた。
大切なモノを取り上げられた子どもみたいに哀しくて不安になって。
けど、別に奪われてなんかなくて。
ましてや取り返す必要もなく、ずっとずっとそこにはあったんだ。
…もう、わかったから。
鼻を擦りながら、目の前でじゃれ合う二人を微笑んで見つめる。
…成長したな、俺。
心の中でそう呟いて、含み笑いで背もたれに寄りかかった。
みんなが口々に"偉いなぁ"と優太を褒めていると、にのに抱きついていた優太が体を離してすぐ上にある顔を見つめながらモジモジしだす。
「…にのちゃ、」
「ん?」
「ごほうび…」
ようやく聞き取れるくらい小さい声でそう言った次の瞬間、優太のふっくらした俺似の唇がにののそれとくっついて。
……あ。
「…っ、びっくりしたあ〜!」
突然のことに驚きつつ、口元に手を当てて顔を赤くするにの。
優太は満足そうにヘヘッと笑ってにのを見上げている。
…待て、落ち着け俺。
相手は子どもだ、うん。
今しがた自分の中の綻びを修復したと思ったのに、またなんとも言えないざらつきが胸に広がる。
「ふは、にのめっちゃ照れてんじゃん」
「あはは!だって顔相葉さんなんだもん…
なんか奪われちゃったみたい」
苦笑する翔ちゃんに照れ笑いながらそう返すにの。
ふと目が合って、また悪戯っぽい笑みが向けられた。
…前言撤回。
どうしてくれんの、この気持ち。
目の前の小さな分身に、静かに闘志を燃やして。
…リベンジするから待ってろよ、優太。
end