煩悩ラプソディ
第18章 その男、無自覚につき。/AN
おなじみの縞シャツにベストを羽織り、簡易テントの中でスタンバイ中。
「…ねぇ相葉くん、」
ふいに隣の渡部さんが声をかけてきた。
「こないださ、ニノと番組一緒になったんだけどさ」
こちらを覗き込むようにして話し出す渡部さんに短い相槌を打ちながら聞いていると。
「ニノってさ…
ぁ、いや…やっぱいいや」
「え?ちょ、なに?なんですか?」
やけにあからさまに言葉を濁すから笑いながらつっこむ。
「…や、これ別に変な意味じゃないからね?
引かないでよ?」
じっと見つめながら念を押すその顔を不審に思いつつ、目でその先を促せば。
「ニノってさ…かわいいよね」
「…え?」
はい?
「いやなんていうかさ、こう…
仕草?表情っていうか…。
いやこの前ね、番組で食べる企画あったんだけど。
なぜか俺のこと見ながら食べててさ。
すっげえ目がうるうるしてんだよ」
って熱弁する渡部さんになんとも言えないざらつきが胸の中に広がる。
アイツ…
またよそで色気振りまいてんの?
「ね、思わない?
近くで見てさ、かわいいなとか思うでしょ?」
指を差されながら問いただされ、張り付けた笑顔で答えた。
「や〜…ずっと一緒にいるからそういうのよく分かんないっす」
なわけない。
にのが可愛くて仕方ないってのに。
つーか渡部さんそんな目でにののこと…
「へぇ〜やっぱそんなもんなんだね。
や、けどここだけの話さ…
マジで気をつけた方がいいよ、ニノは」
ひそひそ話をするように手を口元に添えてそう言う渡部さん。
「気をつけるって…?」
「いやだからさ、勘違いしちゃう輩が寄りつかないようにしないと」
「渡部さんみたいな?」
「そうそう俺みたいな、って違うよ!
俺は違うから!」
ノリツッコミに笑いながらも目の奥は笑ってない自覚あり。
「相葉くんしっかり見張ってあげてよ」
ディレクターに呼ばれた渡部さんが、からかうようにそう言い残してテントから出て行った。
…言われなくてもやってます、それ。
そんなの通常業務だから。
…にしても。