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「良かったじゃねえか、結果的に」


言いながら電気回路の小さな部品をピンセットでつまむと、器用に回路版に置いて作業を始める。


「や、そうだけどさ！
マジで心臓飛び出るかと思ったんだから」


向かいで指先に視線を落としながらも笑っている大ちゃんに向かって、ちょっと大げさにアピールする。


放課後の物理準備室に、今日は俺から大ちゃんを呼び出した。


昨日の仕打ちへの僅かな抗議と、大きな感謝を伝えたくて。


「仕方ねえじゃん、急に学年会議入ったんだから。
したら二宮先生が＂今日は時間あります＂って言ったんだもん」


わざと口を尖らせて子どもみたいに言い訳を並べつつ、ちらっとこちらに目を上げた。


「で？告ったのか？」

「は？そんなのできるわけないじゃん、」

「なんで」

「なんでって、いきなりあんな状況で告れるわけないでしょ」

「なんだよお前、あんなベストな状況他にねぇかんな」

「っ、だから簡単に言うなよ！
そもそも大ちゃんのせいじゃんか！」

「＂せい＂じゃなくて＂おかげ＂って言え、このやろ！」


ピンセットの頭でおでこをツンと突かれて、思わず＂いてっ＂と言いながら顔を歪ませた。



確かに、あの二人きりの状況なら告るタイミングはいくらでもあったと思う。


だけど、なんていうか…


昨日のにのちゃんとの時間は、俺にとっては充分すぎるほど幸せだったんだ。


可愛い照れ顔を見せてくれて、あんなに近くで笑ってくれて。


そして俺だけに秘密を預けてくれた。


にのちゃんのことをもっと好きになったのは確かだけど。


なんかもう、その想いだけでいいような気がしてて。


今までしつこいくらいにまとわりついてアプローチしてきて、やっと少し縮まった距離。


嬉しくて嬉しくて。
でもそれと同時に、怖くなったんだ。


この距離感を、失いたくないから。


だから、このままで…



「…お前まさか＂このままでいい＂とか思ってねえよな？」

「えっ？」


今しがた考えてたことを言い当てられて間抜けな声が出た。


頬杖をついてこちらをジッと見つめながら大ちゃんは続ける。