煩悩ラプソディ
第19章 原稿用紙でラブレター/AN
『…おぉ、ごめん急に。
いま大丈夫か?』
「うん、なにどしたの?」
『いや…まぁ、うん。
ちょっとさぁ…相談っつうか…』
「相談?うん、なに?」
電話の向こうの翔ちゃんはなんとなく歯切れが悪くて、考え込むような声を出すだけでなかなか話し出そうとしない。
「どしたの?
なんか朝から変だったよね、そういえば」
『えっ、いや…
そうだっけ?』
「ふふっ、なになに?
どしたの?言いにくいこと?」
ベッドにあぐらをかいて、机の上の原稿用紙をチラチラ見つつ翔ちゃんの言葉を待つ。
『なぁ、雅紀はさ…
好きな人っている…?』
「えっ?」
思いがけない翔ちゃんの言葉にドキッと心臓が跳ねた。
一瞬で脳裏ににのちゃんの顔が浮かぶ。
「え…なに?急にそんな、」
『いや、俺さ…
あ〜…雅紀あのな、
今から言うこと聞いても引かないでくれる?』
電話越しの翔ちゃんの声が緊張したのを感じて、不審に思いつつ小さく"うん"と答えると。
『俺さぁ…
松潤のこと…
好きになってんだよね…』
…え?
「…まっ、松潤!?」
『っ、そうだよな?そうなるよな!?
あぁ〜俺やっぱおかしいんだよ!』
「ちょ、えっ…松潤っ!?」
『あぁ〜!もう言うな!
言った俺が間違いだったわ!』
全く想定してなかった翔ちゃんの言葉に、頭の中をどうにか交通整理してようやくひとつだけ浮かんだ感情。
電話の向こうで喚いている翔ちゃんの声が、どこか遠くに聴こえるようで。
なんだよ…
それって…
翔ちゃんも、俺と一緒ってこと!?
『はぁ…俺どうかしてるよな。
やっぱ男子校に来たのが間違いだったん、』
「翔ちゃん…」
嘆きに変わった翔ちゃんの声を遮り、トクトクと高鳴る鼓動を抑えながら続ける。
「…俺もね、にのちゃんが好き」
『えっ?』
「…にのちゃんが好きなの俺もっ!」
『…はぁっ!?』
声を裏返して驚く電話越しの翔ちゃんをよそに、興奮を抑えきれず思わずベッドに立ち上がる。
「や、てか待って待って!
あんなドSのどこがいいのっ!?」
『っ、うっせ!
つぅかお前あんな無愛想のどこがいいんだよ!』
「えっ!分かんない!?
にのちゃんの可愛さ!」
『わかんねーよ!
お前こそ松潤のなに知ってんだよ!』