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煩悩ラプソディ

第19章 原稿用紙でラブレター/AN






その日から毎日、原稿用紙に想いを綴るのが習慣になった。


というのも、にのちゃんを見かけたりちょっと話したりする度にどんどん好きになって伝えたいことが増えていく。


書き始めて五日目にしてすでに十枚を越えてしまった。


想いのままに書いたそれは、もはや手紙というより日記のようで。


にのちゃん観察日記。


うん、まさにそう。


だって、ほんとに可愛いんだ。


ずっと飽きずに見てられる。



一昨日の朝は、初めてにのちゃんがくしゃみしてるのを見た。


両手で口元覆って仔犬みたいに超可愛いくしゃみで。


その日の昼に廊下で会って"風邪引いたの?"って聞いたら、すっごい鼻声で"引いてません"って言われたっけ。



…あ、そうそう。
昨日の授業のあと、なんか話しかけたくていつもすぐ出て行くにのちゃんを追いかけて。


とりあえず今朝なに食べたか聞いたら"おかゆ"って女子みたいな答えが返ってきた。


おかゆフーフーしてメガネ曇らせてたりして。


ふふ、想像しただけで可愛い。



頬杖をついて、目の前で淡々と授業を進めるにのちゃんをジッと見つめる。


…あ、こっち見た。


すかさずにこっと微笑むと、ふいっと目を逸らす。


だけど、耳がちょっと赤いのは気のせいじゃないと思うんだ。


昨日からにのちゃんの様子がなんか違うんだよな。


しつこいくらい話しかけて授業中はずーっとにのちゃんを見つめてるから、さすがに俺の気持ちに気付いたのか。


それとも、朝ごはんがおかゆって言っちゃったの後悔してんのかな。


んなわけないか。



「昨日提出してもらった課題を返します」


授業の終わりににのちゃんがそう言って、次々に名前を呼んで課題を返していく。


その間もずっと視線を送っていると、ふいにこちらを向いた。


「…相葉くんは、放課後返します。
帰らないで残っててください」

「…えっ?」


いつもの仏頂面で小さくそう言うと"終わります"と告げて号令のあと足早に教室を出て行った。


突然のにのちゃんの言葉に頭が追いついてこない。



えっ、どういうこと?


俺の小論文そんなに悪かった…?



「…おい雅紀、これって超チャンスじゃね?」


後ろから興奮気味に小声を弾ませる翔ちゃん。



…え、マジで?

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