煩悩ラプソディ
第3章 ちいさなあかり/AN
どうやら今日は、どこかで花火大会があるらしい。
レッスンを終えて総武線で帰る途中。
駅までの道すがら、浴衣姿で手を繋いでいそいそと歩くカップルと何度もすれ違った。
「…なんかせつないね」
「…だねぇ」
ポツリ問いかけるとにのがため息混じりに返してきた。
「なーにが花火大会だっての」
金網フェンスから無造作に伸びている草をプチっとちぎりながらにのがぼやく。
「…行く?俺たちも」
「は?行かないよ」
フッと鼻で笑いながら振り回していた草をアスファルトに投げ捨てた。
「…じゃさ、俺たちも花火大会やろ?」
「え?」
「あ、ちょっと待ってて」
きょとんとした顔のにのを置いて、少し先に見つけたコンビニの灯りを目指して走った。
「おまたせっ!」
息を切らしながら、手持ち無沙汰に石ころを蹴るにのの元へと向かう。
「…どしたの?」
「うん、これこれ」
ガサッと袋から取り出したのは、うすっぺらい線香花火。
「え、しょぼっ…」
「しょうがないじゃん、今日300円しか持ってなかったんだもん」
苦笑いを浮かべながら、でもどこか嬉しそうな顔でにのが線香花火を手に取る。
「よしっ、行こ!」
「うん」
会場へ急ぐ人々の流れに逆らうように、俺たちはゆっくりと歩き出した。
しばらく歩くと、いつも通りがかる親しみのある小さな公園に着いた。
ブランコに腰掛け、袋から線香花火を取り出したところで火がないことに気付く。
「あ!やべっ、火がない…」
「え?じゃあどうすんの!?」
「あ〜…ライターどっか落っこってないかな?」
「あるわけないじゃん」
立ち上がってキョロキョロと辺りを見回す。
すると、ベンチの横に角柱の灰皿を見つけた。