煩悩ラプソディ
第3章 ちいさなあかり/AN
「あ、あそこにありそうじゃない?」
「ないって、もう…
火なかったら花火できないじゃん」
足をブラブラさせて、見上げながらにのが言う。
「わかんないだろっ、ちょっと見てくるから」
諦めたような顔のにのを後目にベンチの方へと走る。
後ろから『相葉くーん…帰ろうよ〜』という間延びした声が聞こえたけど、気にしない。
電灯の下にぼんやりと佇む灰皿の周りを隈なく探す。
すると、ベンチの足の側に銀色がチラッと光った。
すぐに拾って火がつくことを確認し、心の中でガッツポーズをする。
「にのー!あった!あったよ!」
なんか妙に嬉しくなって手を振りながらにのの元へと走る。
ブランコをキィキィと漕いでいたにのは、大きな声で呼ばれて驚いてこちらを見た。
「うっそ!あったの!?すげえ!」
駆け寄ってくる俺に向かって驚きつつも嬉しそうにそう言う。
そんなにのの笑顔につられて、俺もつい笑顔になってしまう。
二人してしゃがみ込んでライターで線香花火に火を点けた。
線香花火はパチパチと可愛らしい音と光を放ちながら、小さな灯を纏っている。
「…きれいだねぇ」
「うん…きれいだね」
パチパチと音を鳴らす灯を見つめながら、ふと隣のにのを見た。
膝を抱えた腕に顎を預けて、じっと灯を見つめている。
その明るい光に照らされた横顔。
どこか寂しげで…
長い睫毛が揺れ落ちるたびに、
なんか、胸がギュウって締め付けられるみたいで。
「…ぁ、」
オレンジの玉がジリジリと鳴りながら終わりを告げようとしている。
今なら…
言えるかも。
…言っていい?
「…にの、」
その声に顔を上げてこちらを見たと同時に、辺りがスッと暗くなった。
「あ、もぅ…最後見れなかったじゃん」
あーあ、と口を尖らせ残念そうな顔をして地面を見つめる。
「…にの、俺…」
その時。
大きな音とともに一段と明るい光が俺たちを照らした。