煩悩ラプソディ
第21章 未知しるべ/AN
めげずにもう一度手を叩いて呼ぶと、画面を見つめるにのの口元が弛んできたのが分かって。
「にのちゃーん!おいでおいでおいでー!」
一人ジタバタしながら名前を呼べば、とうとう堪えていたにのが吹きだした。
「くふっ…お前それやっても来ないんだろ、どうせ」
眉を顰めてイジるその顔はいつものにのに戻っていて。
「え?今日は超寄ってきたよ?チューもしたし」
「げ、じゃあ俺やんない今日」
「あ!仕事だろ?仕方ないじゃん!」
「いやです~」
口をわざと尖らせて言う仕草がやけに可愛くて。
どうやらもうご機嫌も直ったみたい。
「…ね、にの?おいでよ、」
横になったまま両手を軽く広げて微笑むと、こちらを向いたにのが少し考えてからコントローラーを置いた。
そしてゆっくりした動作で俺の傍に横になり、すっぽりと腕の中に収まる。
首元に感じるにのの呼吸が心地良くて、当たり前のように俺の腕に馴染むこの小さな体が愛おしくて。
ぎゅっと抱き締めて後頭部を撫でれば、回された腕にもきゅっと力がこもった。
「…ふふ、なにこれ、」
「んふふ…なんだろね」
この何の変哲もない日常の空間が、俺たちにとっては最高に心地良い。
俺たちにしか分からない、最強に無駄でくだらなくて…だけどかけがえのない時間。
「…ぁ~腹減った、」
「だろ?変な意地張ってるから」
目下のつむじに投げかけると、ふいに顔を上げたにのが見上げながら続けた。
「ちょっとね…相葉さん困らせてやろうかなって、」
「…え?」
「なんか…そんな気分だった」
そう言っていたずらっぽく笑うから、有無を言わさずそのうるさい口を塞いでやった。
こうやっていつもコイツに振り回されて。
分かってんのに乗っかっちゃうそんな俺。
それはきっと、にのも同じことで。
もうとっくにスタートしてるはずなのに、いつまで経っても景色は変わらない。
だけどそれでいいんだ。
だって、着地点は見えてるから。
だからどんなに寄り道したって必ずゴールに辿り着ける。
こうしてひとつになれば、いとも簡単に。
ほら、手を繋いで一緒にゴールしようよ。
歩幅と呼吸を合わせてね。
end