煩悩ラプソディ
第21章 未知しるべ/AN
コンビニの袋を揺らしながらドアを開け、灯りが洩れるリビングへとまっすぐ向かう。
目に飛び込んできたのは予想通りのにのの姿。
「ただいま」
「…おかえりー」
ラグにあぐらを掻きテレビ画面からは視線を外さずに、間延びした声でそう返ってくる。
そんないつもと変わらないにのを見ると、やっと仕事モードからオフモードに切り替わったような感じがして。
冷凍庫にアイスを入れていると、丸まった背中のにのが手元を動かしながら話しかけてきた。
「ねえ、なんでアイス食ったの?」
「え?いや…ごめん、覚えてないんだよね…」
「は?自分で食ったか覚えてないの?」
「や、あの時一個食ったのよ俺。
で、にののが残ってたんだよね、多分」
「多分じゃないそれ俺のだよ」
間髪入れずにそう突っ込まれ、じっとりした視線を送るにのと目が合う。
すぐにふいっと逸らされると、口を尖らせて黙り込みゲームに没頭しだした。
…あれ?そんなに食べたかったの?
アイスを食べてしまったことに関して、実際にのがそこまで尾を引いているとは思ってなかった。
それだけに思いがけないその態度にちょっと背筋が伸びてしまう。
冷蔵庫からビールを二つ取り出すと、テーブルにことりと置いてにのの後ろのソファに腰掛けた。
「ごめん、怒っちゃった…?」
ぽつり謝ってもこちらを見向きもしないにの。
ビールを開けて置いてやっても反応はない。
「…ご飯は?」
「…まだ」
「なんか作ろっか?」
「いい」
遠慮がちに問いかけてみても短く二言返ってくるだけで。
あー…完全に拗ねてんな。
「にーのちゃん?」
とびきり甘い声で呼んでみても丸い背中は微動だにせず。
「ねぇにの…?」
ソファから降りて後ろからぎゅっと抱き締めても、抵抗どころか反応すらない。
くっそ…
じゃあこれならどうだ…!
にのから離れてすぐ横のラグにごろんと横になり、さっきのスタジオ収録さながらににのを呼んでみた。
「おいでおいでおいでー!」
手を叩きながら全力でアプローチするも、一瞬ちらっと冷やかな視線が下っただけ。