煩悩ラプソディ
第22章 1+1/ON
「にのー、テレビのリモコンどこ?」
「そこ、ボックスん中!」
「にのー、スマホどこだっけ?」
「テーブルにあんでしょーが!」
「…ねえあとでコーヒー淹れ、」
「うるせぇなもう!自分でやれやそんくらい!」
掃除機をかけながら声の方へと振り返って睨みつける。
目線の先には、リモコンとスマホを持って驚いた顔で固まる大野さん。
この人の家に行くといつもこう。
わざとなのか何なのか知らないけど、決まって部屋が散らかってて。
いや、別に俺だって特別キレイ好きなわけじゃない。
だけどさ、散らかってる部屋でゆっくりなんてできないじゃない。
ましてや人んちでさ。
だからこうして、まず一頻り部屋の掃除をしてやるのが最近の俺のルーティンになりつつある。
そして当の本人は一応掃除を手伝うフリだけで、俺を邪魔するかのように話しかけてきたりして。
言っとくけど俺、アンタの嫁じゃねーのよ。
なに亭主関白感出してんだよ。
「…なんだよ、」
急に俺に怒られた大野さんは、納得いかないって感じで口を尖らせて拗ねている。
「…そんな怒んなくてもいいじゃん」
「え?なんてー?」
なんか言ってんな、って思ったけど掃除機をかける手は止めずにリビングを動き回る。
ガーガーと音を立ててキッチンの方まで進んでいくと、背後が静かになった気配がしてチラッと振り向いた。
すると、大野さんがソファの下のラグをコロコロしていて。
あぐらをかいて適当に手を動かす丸まった背中は、どことなくしょんぼりしている様にも見える。
なに無駄にコロコロしてんのよ…。
背中で物を言う姿がなんだかおかしくて、掃除機を止めてソファに近付いた。
「…なにしてんすか」
「……」
含み笑いながらポツリ声をかけると、こちらを振り向いた大野さんの顔が予想通りしょんぼりしてて。
思わず吹き出しそうになるのを堪えて、傍にしゃがみ込む。
膝に腕を組んで覗き込むと、口を尖らせてふいっと顔を背けられた。
…あ、なんなのそれ。
「なに?どしたの?」
「……」
「言ってごらんなさいよ、ん?」
「……だよ、」
「え?」
「……いいなって、思ったんだよ」
口を尖らせてそう発した横顔は、耳のふちがほのかに赤く染まっていて。