煩悩ラプソディ
第3章 ちいさなあかり/AN
見上げると、空の闇に映える大きな大きな花が。
「うわ…」
そう一言溢すと、にのは立ち上がって落ちてくる色とりどりの花びらに照らされながら黙って空を眺めていた。
言いかけた言葉を飲み込んで、ハァとため息をつく。
また言えなかったなぁ…
頭をポリ、と掻いて苦笑いしつつ立ち上がってにのの横に並んだ。
「やっぱ敵わないね、これには」
へへっと笑って、音とともに次々に打ち上がる花火を見つめる。
「…そお?俺はこっちのが好きだけど」
そう言って、さっきの線香花火の燃えカスを見せた。
「ふふっ、無理しないでよ」
「してないよ?別に」
おどけたようにそう言いながら、にのはまた空を見上げる。
絶えることなく咲き続ける花は、俺たちを包み込むように明るく照らしている。
すると急に、にのがスッとしゃがみ込んだ。
驚いて目を遣ると、線香花火を俺に手渡しながら見上げて口を開いた。
「はやく、やるよ」
「…ぇ、でも」
「俺はこっちのがいいの!…はい」
そう言って俺の手を引っ張り、しゃがませた。
「…こうゆうのはさ、地味なのがムードでるでしょ?」
「…えっ?」
こちらを見ずにそう言って自分の線香花火に火を点けた。
「な、なに?どういう意味っ…?」
ふいの言葉に必要以上にドキマギしながら、隣のにのの顔を窺った。
「さっきの続き…言っていいよ…?」
上目遣いでチラリとこちらを見て、フフっと笑いながら俺の線香花火にも火を点ける。
「えっ…?」
思わず声が裏返ってしまった。
にの…
知ってたの…?
にのは穏やかな顔でパチパチと鳴る光に照らされていた。
「やっぱ…敵わないね」
「…ん?」
いつの間にか、夜空にはいつもの真っ暗い闇が広がっていて。
辺りは妙に静かで、鈴虫の鳴き声と線香花火の音がますます俺を後押しさせる。
…やっぱ、にのには敵わない。
俺の心の中、全部見透かされてる。
もう、今度こそ…
ちゃんと、言うから。
この線香花火が、消え落ちる前に。
「にの…俺ね…」
end