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煩悩ラプソディ

第22章 1+1/ON






「…はい」


優しい声色でそう言って、あぐらをかいたまま両手を広げて『おいで』のポーズをとる。


なんの恥じらいもなくそんなことをする目の前のこの人に、俺はというと変なプライドが邪魔して素直に飛び込めない。


唇をきゅっと結んで視線を彷徨わせていると、ふいに大野さんが体をこちらに傾けた。


そして、尻もちをついたままの俺をぎゅっと抱きしめてきて。


「…ほんとにいいの?俺で」


耳元でそう呟き、少し華奢になった腕にぐっと力が込められた。


突然の大野さんの体温に体が熱くなるのを自覚する。
反射的にこくりと頷けば、ふふっという笑みが鼻から抜けて。


「…俺こんなだよ?」

「……ん、」

「…だらしねぇよ?」

「…知ってる」

「めっちゃ甘えるよ?」

「ふふ……うん」

「なんもしねぇよ?」

「…いやちょっとはやれや」


いつもの調子で言い返すと、笑いを堪えるように肩を揺らす。


「…多分、離れらんないよ?俺」


同じ高さにある耳たぶの熱を頬に感じながら、甘いその声が胸に沁み渡ってきて。


「…望むところだよ」


そっと体を離して見つめると、またふふっと笑みをこぼしたその唇が近付いてきた。


互いの唇に沿うように触れたそのキスは、まるで何かを誓い合ったような感覚で。


惜しみつつどちらともなく離れて、なんだか照れ臭くて二人して俯く。


ふと目を上げれば、同じタイミングでこちらを見上げた垂れ目と視線がぶつかって思わず吹きだした。


無性に恥ずかしさが込み上げてきて、この笑い合ってる感じもどうしようもなくムズムズする。


それに、なんなのこの体勢。



「…あ、掃除機途中だったわ」


この場を離れたくて言いながら立ち上がると、なぜか大野さんも一緒に立ち上がって。


「なによ…」

「ん?いや…」


それだけ言うと、満足気な顔で俺のあとを追うようについてきた。



掃除機をかける俺の後ろにぴったりくっついて離れないおじさん。


「っ、ああもうあっち行けよ!」

「んふふ」


さっきと同じように怒鳴ってるつもりなのに、やたら嬉しそうなその顔にもう掛ける言葉なんてなくて。




…大丈夫だって。



俺なんかもう…



とっくに離れらんないんだから。





end

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