煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
にのちゃんの家に着いたはいいものの、一つの問題が立ちはだかった。
…俺って、一体何者?
家族の人に何て名乗ったら怪しまれないんだろう。
友達にしては歳が離れてるし、同僚にしては若すぎる。
教え子…が妥当だけど、この時間にわざわざ訪ねるなんて逆に怪しまれそうだし…
『二宮』の表札がぼんやり灯る門扉の前で、インターホンを押そうか押すまいかの葛藤が始まる。
あぁ、どうしよう…
「…あの、なにか?」
「っ!」
ふいに聞こえた声に大きく肩を揺らして振り向くと、少し離れた位置からこちらを窺う女の人が居て。
カジュアルな服装に片手にはスーパーの袋を提げ、やや警戒したような視線を送ってくる。
瞬時ににのちゃんのお母さんだと分かって、急に背筋に緊張が走った。
「あっ、あのっ!こ、こんばんは!
僕、にの…みやくんの、友達で、」
自分でも分かるくらいぎこちない喋り方で、だけど何とか怪しまれないようにと頭をフル回転して続ける。
「あの…忘れ物を、届けに、きました…。
あ、こんな遅くに、すみませんっ!」
言いながら勢い良く頭を下げれば、仄暗いアスファルトに伸びる影が遠慮がちに動いた。
「…そうなんですか。わざわざどうもすみません。
あ、ちょっと待っててくださいね」
その優しい声色にゆっくり顔を上げると、横を通り過ぎながらにこっと笑いかけてくれて。
その笑顔がにのちゃんに似てて、強張っていた体が少し解れたような気がした。
パタンとドアが閉まり、急に落ち着かなくなって意味もなくキョロキョロしてしまう。
あ…やべっ、友達って言っちゃった!
怪しまれてないかな?
…てか俺こんなカッコで良かった?
うっわ、靴汚れてんじゃん!
と、体をぺたぺた触り片足を上げてスニーカーの裏まで確認していると、真っ暗だった二階の部屋の灯りがパッと点いて。
にのちゃんの部屋かな?と思いながら見上げた時、カーテンの端が少し開いた。
そこからちらっと顔を覗かせたのは、紛れもなくにのちゃんで。
あ、にのちゃ…
俺を見つけると遠目からでも分かるくらい驚いた顔で、慌てるようにカーテンが閉められた。
…あれ?