煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
それから程なくしてドアがカチャっと開き、半身隠れるように顔を覗かせたにのちゃんの小さな声が届いた。
「…相葉くん、」
おでこに冷却シートを貼ってメガネをかけた姿に、体調の悪さを感じられて胸がきゅっと締めつけられる。
同時に、そんな姿でさえ可愛いと思ってしまう自分もいて。
いつもよりだいぶ無防備なにのちゃんを前に、俺がそうさせてしまったことなんて忘れてしまうほど見入っていた。
…じゃなくて!
まずはこれを渡さなきゃ。
「ぁ、急に来てごめんね?
あの…これ預かったんだ」
門扉に近付いて、握っていたスマホを掲げた。
すると、はっとしたように目を開いたと思ったら途端に眉を下げ、唇をきゅっと結んで黙り込んでしまって。
そして何かを考えるように俯いてから、目線だけを上げてぽつり呟く。
「…ありがとう。あの、ここじゃなんだし…
良かったら、上がって、」
語尾が消えそうに小さい声で、よく見ると耳が少し赤くなっていて。
そんなにのちゃんの様子に、急にこの状況が現実味を帯びてくる。
そうだ俺…
にのちゃんちに来ちゃってんだ!
うわ、どうしよ…
超緊張してきた…!
高鳴りだす心臓を無視できなくて、門扉を開けようとこちらに近付いてきたにのちゃんに反射的に一歩下がってしまった。
「…どうぞ」
「ぁ…うん、」
ちらっとこちらを一度見たその瞳は、体調のせいか少し潤んでいて。
その瞳に惹かれるように、後ろ姿について中へと入った。
***
小さなテーブルを挟んで、なぜか二人とも正座で向かい合う。
初めて来たにのちゃんの部屋は、俺の部屋とは違い至ってシンプルで。
ベッドも机も棚も、まるで真面目なにのちゃんを映しているかのように片付けられていた。
その部屋の主であるはずのにのちゃんは、ぎゅっと膝に拳を握って俺より緊張したように表情が硬い。
昨日の様子からしても、やっぱり俺に原因があるとしか思えない。
…だから、ちゃんと伝えにきたんだ。
俺の、精一杯のにのちゃんへの想いを…もう一度。
そう意気込んで、流れる沈黙を断ち切ろうとすぅっと息を吸い込んだとき。
「…ごめんなさい、」
ものすごく小さいけど確かに聞こえた声に、思わず息を止めて目線を上げた。