煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
少し遠い位置から小走りに駆け寄ってきたのは、風景とマッチした爽やかな笑顔を見せる松本先生。
「お疲れ様です、今帰りですか?」
ニッと口角を上げるその顔は相変わらず整っていて。
オシャレな色のネクタイやバランス良く決まったスーツ姿に、自分を顧みていつも見劣りしか感じない。
「お疲れ様です。社会科も今だったんですね」
「はい、も~疲れましたよ」
そう言って横に並んで歩き出した先生が、ふとこちらに振り向いた。
「ここ、よく通るんですか?」
「え?」
「いや、この辺は俺よく通るんで。
けど二宮先生見かけたことなかったなって、」
考えるような視線を送られながら、ちょうど並木道の途切れる辺りに差し掛かって。
そこに現れた大きな門扉を見て、松本先生が小さく『ぁ』と声を上げた。
「…ここって相葉の、」
「っ、いや、あの」
「ふ~ん…なるほどねぇ、」
明らかに冷やかすような横目を向けられて、言葉に詰まってしまった。
…別に意識してたわけじゃないのに。
偶然この道を通ってしまっただけで…
なんていう心の呟きは松本先生には聞こえる訳もなく、ただただニヤニヤした笑みで見つめられて。
その視線に居た堪れなくなって、肩に掛けたバッグのベルトをぎゅっと握り締めて歩き出そうとすると。
「ねぇ先生、待ち伏せしません?」
「っ、は?」
「もうすぐじゃないです?」
どこか楽しそうな瞳でそう言う松本先生。
…ま、待ち伏せ!?
開かれた大きな門扉の奥からは、講義を終えた学生たちがちらほら姿を現し始めていて。
「翔もだいたい今ぐらいに終わるんですよ。
ね?ほら、探しましょうよ」
ずいっと俺の前に身を乗り出してキョロキョロと覗う様は、どう見たって不審者でしかない。
「ちょ、松本先生っ、やめ…」
「…あっ!」
制止しようと腕を引っ張った時、つま先立ちの先生が首を伸ばして声を上げた。
そのすぐ後、そこそこのスピードでこちらに向かってくる自転車を捉えて。
あ、相葉くんっ…!
その姿に否が応でも心臓が跳ねてしまう。
「おい、相葉っ!」
俺たちの前を通り過ぎようとした相葉くんに、松本先生が意気込んで声を掛けた。