煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
爽やかな風がそよそよと流れ、街路の広葉樹の緑が陽に照らされてきらきらなびく。
暑くなって脱いだジャケットを片手に、初夏の訪れを肌で感じた。
今日は教科研修で、午前中から近くの高校へ出向いていて。
いつもは通らないから知らなかったけど、こんなにきれいな並木道があったんだ。
歩きながら、ふとあることに気付く。
あ、この辺って相葉くんの大学…
全く意識せずこの道を選んだのに、そんな小さな偶然にさえも何だか妙に嬉しくなった。
相葉くんの突然の訪問があってから、俺たちの関係に少し変化があった。
あの時また自分の気持ちを抑えられなくて、想ってたことを相葉くんにぶつけて。
年甲斐もなく《もっと会いたい》だなんて、言ってしまったけど。
…ほんとに伝えたいことは、それだったから。
自分で消化しなきゃって思ってたけど、やっぱりそんなことできなくて。
きっと…俺には相葉くんが足りてなかったんだ。
だからあの日を境に、自分の気持ちを素直に伝えようと決めた。
これは、俺だけのことじゃなくて…
相葉くんも同じなんだからって。
それに応えるように、相葉くんは俺と会う時間を最大限作ってくれている。
今まではバイト終わりにだけだった平日も、講義が早く終わる日は学校に遊びに来てくれたり。
卒業生だからおかしくはないけど、週1ペースで顔を出すようになった相葉くんに大野先生も少し呆れてるっぽい。
でも俺にとっては凄く嬉しくて。
ちょっとでも相葉くんの顔を見れたり、話せたりするだけで。
なんだろう…
大袈裟だけど、自分を保てる気がしてる。
それに、前よりも直球で《好き》と言われることが増えたのも一つの要因なのかも。
俺も応えたいけど、まだ恥ずかしさもあって…。
俺なりに、精一杯の《好き》を伝えてはいるつもり。
ポケットからスマホを取り出し、昨日送ったメッセージを開く。
『明日もバイト頑張ってね。
じゃあそろそろ寝よっか。
おやすみなさい。
相葉くん、大好き』
自分で送ったのをこうして読み返すのは恥ずかしいけど、これが今の俺にできる最大限の愛情表現で。
「二宮先生っ!」
一人画面を見つめて勝手に照れていると、ふいに後ろから大きな声で呼ばれて肩を揺らして振り返った。