煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
開け放った大きな窓から差し込む朝陽が、爽やかな風に乗って遮光カーテンを揺らす。
キッチンからは小気味の良い支度の音と、コーヒーの芳しい香り。
スーツのジャケットと新聞を手に、その暖かい場所へと歩みを進めると。
ダイニングテーブルに少しずつ並べられ始めた朝食たちに迎えられ、今朝もまた幸せな一日の始まりを予感させるんだ。
「あ、おはよ、翔ちゃん」
カウンター越しに届いた声に目を遣れば、コーヒーポットを片手ににっこりする可愛らしい姿。
「おはよ、雅紀」
つられてにこっと笑いかけると、ふふっと笑みを溢して手元に視線を移した。
俺達が"家族"になって、今年で二回目の春を迎えた。
多少の恥ずかしさのあった名前呼びも、家事の役割分担も。
今となっては、すっかり日常の一部分になっていて。
お互いに仕事を抱える中でのこと。
器量の良い雅紀とは違い不器用な俺だけど、自分なりに出来ることはやっているつもり。
そんな俺に、いつだって優しくて温かい眼差しを向けてくれる。
"誰かの為に"という想いを、もう一度蘇らせてくれたのも他でもない雅紀で。
そして、愛おしいと思える存在を与えてくれたのも…
リビングのドアがカチャリと開いて、ぺたぺたと小さな足音が連なる。
欠伸をしながらふらふらと歩いてくる様子に、思わず笑みがこぼれた。
「おはよう、潤、かず」
目をごしごし擦りながら俺の姿を捉えた潤が、ぽふっと足元にしがみ付いてきて。
「…パパぁ、おはよ…」
見上げてぽつりそう言う潤の目は、しっかり閉じられている。
「ふはっ、おい潤!まだ起きてないだろそれ」
ぐにっとほっぺたを摘まむと、うめき声を上げてふらつきながらまたしがみ付かれ。
ふと横に視線を遣れば、目をしょぼしょぼさせたかずがこちらをじっと見上げていて。
その顔がへらっと緩まって、潤と同じように俺の足にしがみ付いてきた。
「パパおはよ~」
かずのくぐもった声を足元に、この愛おし過ぎる二人に俺は毎朝やられている。