煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
この春、潤とかずは小学校に入学した。
一時は院内学級への入級も考えたが、子ども達がそれを強く拒んだ。
せっかく家族になったのに、一緒に住めるようになったのに、と入院中もよく不満を漏らしていて。
日に日にその思いが強くなったのか、見舞いに行く度に『家に帰りたい』と泣きながら訴えられてきた。
そんな子ども達の想いは、痛い程分かっていたから。
幸い二人とも病状は随分安定しているし、何より『帰りたい』という思いが子ども達を強くしているんだと感じて。
俺も雅紀も、何とかして二人を普通小に入れたいと必死に大野先生に頼み込んだんだ。
そしたら…
『…まぁいいか』
と、案外すんなりと承諾してくれたのには正直驚いたけど。
大野先生の条件付きで、めでたく揃って退院する運びとなった。
その条件は、
【毎月一週間程は治療の為入院をすること】
【体に不調を感じたらすぐに病院に来ること】
【お父さんたちの言うことをちゃんと聞くこと】
というお馴染みの三カ条で。
今のところきちんと守られているとは思う。
…あ、一つを除いては。
「かーず!ほら早く座って!潤も!時間なくなっちゃうよ?」
足元にしがみ付く小動物たちに、毎朝の恒例となった雅紀の声がかかる。
「え~またたまごぉ?ぼくハンバーグがいい」
「朝からハンバーグなんか作れるかっ!ほら、早く座んなって」
むくれつつテーブルに手を掛け覗き込むかずを、『はいはい』と言いながら雅紀が抱き上げる。
向かいに雅紀とかず。
隣には潤。
「いただきまーす!」
四人揃って手を合わせたこの瞬間から、毎朝時間との戦いがスタートするんだ。
「ごめん雅紀、醤油取って」
「はいパパ!」
「おっ、ありがとかず…って、あっ!」
「っ、こらかず!袖ついてるって!」
「あ~…たまごついちゃった…」
「かずくん、はい」
「ありがとじゅんく…あっ!じゅんくんも!」
「うわっ、ちょ、おまえら!パジャマ脱げ!」
もう毎朝こんなハプニング続きで、正直幸せに浸ってる余裕なんか…
「翔ちゃんごめん!服取ってきて!」
「はいはい!」
だから…
"家族"としてスタートした俺達の関係はと言うと、相変わらずなもので…。