煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
とっくに潤は作文を読み終えているのに、どうしても顔を上げられない。
次々に溢れてくる涙を、どうしたって止めることなんてできなくて。
潤っ…
隣からも一層鼻を啜る音が聞こえてきて、二人して何も言えずにただただ泣くだけだった。
「…パパぁ?」
あまりの泣き様に驚いているのか、潤の遠慮がちな声が届く。
「…っ、ごめ、ごめんな…うん、ありがとな…潤、」
情けないくらいか細い声しか出ない俺の傍に、潤が寄ってきて。
「パパ…ぼくいいこにするから…。
おねがい、かなう?」
不安そうな声で、俺のシャツの袖をぎゅっと握り締めながら呟く。
そんなの…
「…叶うよ。うん、絶対叶えさせてやるから…」
そっと微笑んでそう答えれば、不安げに揺らしていた瞳が途端にぱあっと明るくなった。
「よかったぁ!かずくん、やった!」
「うんっ!」
そう言って両手でハイタッチをして喜び出す二人に、思わず小さく吹き出してしまって。
ふいにこちらを向いた雅紀にも笑いかければ、細めた目尻の皺が一層濃く刻まれた。
はしゃぎながら、俺達の間にぴょんと飛び乗ってきた子ども達。
俺達に抱き着きながら、嬉しそうに笑みを浮かべて。
「ねーおとーさん、またサンタさんにぼくのおねがいゆってね?」
「ふふっ、わかった」
「じゃあぼくも!」
「いいよ。かずのお願い何なの?」
「あのねぇ…」
そう言って、体を伸ばして雅紀に耳打ちするかず。
「…っ、はぁっ!?」
「ふふふっ」
口元に手を当てて笑うかずを、驚いた顔で見る雅紀。
「ん?なに?」
「いやっこれは…えっ、かず!?」
動揺を隠せないでいる雅紀は、顔を赤らめてかずに眉を顰めていて。
不思議に思いながらも、ぎゅっと抱き着いてくる確かな温もりに自然と顔が綻ぶ。
こうして抱き締めることで、感じること。
手を繋ぐだけで、伝わること。
顔を見合わせて、読み取ること。
それは、近くに居るからできることであって。
手の届く距離、温もりを感じる空間こそが…
きっと、大切なんだ。
もう絶対手離したりなんかしない。
だって、こんなにも近くにいるんだから。
大事な大事な…
俺の、家族たちが。
end